英国の2005年賭博法は、当初より極めてオープンな制度設計を志向しており、オンライン賭博に関してもオープンな考え方をとった。同法第16章、第331条(2)項は、EEA(European Economic Area~ EU加盟国並びにEFTA-European Free Trade Association加盟国にノルウエー、リヒテンシュタイン、アイスランドを含む~)及びジブラルタル以外の諸外国、地域、領土に属するオンライン賭博事業者は、これら諸国が十分な規制と制度の枠組みを施行していることが立証されない限り、英国内において広告をすることを禁止している。但し、主務大臣(英国文化・メデイア・スポーツ省大臣)が定める一定の判断基準と評価により、当該国、地域、領土等があたかもEEA諸国と同等と認められる場合には、例外として英国における広告と営業を認めると規定している。文化・メデイア・スポーツ省は2007年1月に「法第331条(4)項に定める一国ないしは場所をEEA諸国と同様に取り扱うことを規定する大臣権限に関する判断基準」を公表したが、一国の政府による英国文化・メデイア・スポーツ省大臣に対する表明(Representation)を必要とし、開示されるべき要件や、適用される条件を詳細に記載している。即ち申請者たる一国の政府は、賭博行為が公正に提供され、犯罪や社会秩序の混乱の原因になっていないこと、犯罪支援に用いられていないこと、社会的弱者に影響を与えないこと、当該事業者がマネー・ロンダリングや財務関係の資格認証の対象になっていないことを制度としてどう措置しているかを表明することになる。注目すべきはこの英国政府の認証はあくまでも一方的なものであること、国対国の関係で、制度のあり方から適格性を論じているわけで、個別の当該国の事業者の適格性を論じているわけではないこと、単なる表明にすぎず、拘束力のある考え方ではないこと等になる。
かかる手続きを経て、英国政府により認知される国、地域、領土をホワイト・リスト諸国(white listed jurisdictions)、この認知される行為をホワイト・リステイング(white listing)と呼称するが、俗語であって、正式な法律用語ではない(いわゆるブラック・リストの反対概念と考えた方が解りやすい)。このホワイト・リストに記載されるメリットとは、英国にその本拠を置かず、英国の規制機関たる賭博委員会のライセンスを取得することなしに、外国から英国民に対し、自らのサイトの広告を公表・掲載し、英国民を顧客とすることができることにある。即ち英国の複雑かつ精緻な手順を得てライセンスを取得し、英国に納税する義務(粗収益の15%)を免れながら、英国民に賭博サービスを提供できるということに等しい。
EEA諸国とジブラルタル(英国の海外領土で、法技術的には英国の一部とみなされている)は2005年賭博法において英国と類似的と認められている国々になり、ホワイトリスト諸国とは、これら制度的に認知されている国と、あらたに英国政府により認知された国々を意味することになる。アルダニー(英領チャネル群島の一部で、英国の一部ではないが、英国の属国)とマン島は2007年に認められ、アンテイグア・バルブーダは2008年、豪州タスマニアも2008年に認知された。一方、カナダ・カナワケ族からの申請に対しては、カナダオンタリオ州が参考意見を提出しなかったため、認められていない。また2009年以降、文化・メデイア・スポーツ省は、制度見直しを公言し、以後新たな申請を受け付けていない。
法施行の当初の時点では、多くの企業が英国でのライセンス取得に動いたが、課税コストの高さより、大手企業を始め、英国を忌避する動きが出始め、かなりの企業が英国に本拠をおかず、軽課税国で、尚かつ英国民に対して継続的にサービスを提供できるオフ・ショアに本社を移転してしまうという結果をもたらしてしまった(ジブラルタルやEUの一部で税負担が軽いマルタ島への移転が多かった)。この結果、2011年における英国賭博委員会が管理するオンライン賭博の粗売上(Gross Gambling Yield)は7億7,100万€に留まり、過半の需要はオフ・ショア事業者が賄っていることが現実の様である。一方、この2005年賭博法第331条に基づく特例措置には、当初から有識者の反論も強かった。実際の審査・評価は、現地で精査したわけでなく、政府が提出した書類審査のみであり、極めて曖昧、かつ問題のありうる国ないしは、その国でライセンスを取得した問題ありうる事業者を、安易な形で認知してしまっているのではないかという批判になる。
現連立政権の文化・メデイア・スポーツ省大臣は、2011年7月に制度の見直しを公言、2012年末に法案の骨格が提示され、今後議論を詰め、2014年12月を目途に法改正を実現することを目指している。この結果、ホワイト・リステイングという制度概念そのものが、実質的に消滅することになる。
考慮されている考えとは、
① ライセンス制度を変更し、外国に設立されたオンライン事業者でも、英国市民をその顧客としてサービスを提供する場合には、英国賭博委員会の個別のライセンス取得を義務づけること、
② 「消費地課税制度」(Point of Consumption Tax)を導入する。即ち、オンラインで賭博サービスを提供する事業者に対し、顧客の場所をベースに課税する(顧客が英国人ならばその粗収益には課税するという考えになる)。税率は未定だが1/3になるという情報もある。過去7年間で約21億£の税遺漏があったとされ、税率をどのレベルにするか次第で状況も大きく異なってくるのだろう。
但し、この考えは、市場に対し差別的な規制を設けることに等しく、もし税を確保することだけがその目的であった場合、賭博行為を極めて営利的に捉える政策を取ることを意味し、これではEU法上問題とされる可能性もゼロではない。