米国主要地域におけるゲーミング賭博制度 |
180. 新しい制度志向 ③ 州政府が所有するカジノ(カンサス州) |
2012年12月27日 |
米国におけるカジノ施設は民設民営が基本となる。ところが法律上のカジノ施設の所有者、運営者は州政府となり、州政府がその運営行為を民に委ねる形式のカジノが米国では始めて、カンサス州で2010年に実現した(一部東部諸州では、レイシーノやVLTスロット・カジノに関しては、機材を公的部門が購入・所有し、その運営を民間事業者に委ねるという公有民営手法が部分的に存在し、この変容と見なすこともできる)。根拠法令は2007年に成立した、「カンサス州拡大ロッテリー法」(Kansas Expanded Lottery Act of 2007)だが、かなりややこしい背景がある。 カンサス州では1855年以降、ロッテリーは州憲法で禁止され、1974年に慈善ビンゴ、1974年にパリ・ミュチュエル賭博が認められ、1986年にようやくロッテリーが再度認められたという経緯がある。但し1986年改定は、州政府が民にライセンスを付与し、規制し、課税するという仕組みではなく、あくまでも州政府自らがロッテリーを「所有し、運営する」ことが前提とされた。この後、時代の変遷や環境の変化に伴い、同州でも、カジノやスロット・マシーン設置を合法化しようとする政治的運動が15年以上もなされ、2007年に至りようやく議会で「拡大ロッテリー法」が成立し、これが認められるようになった。 この制度自体は、既に認められていた「ロッテリー賭博法」を改正し、今ある制度的枠組みを活用して、競馬場にスロット・カジノを設置すること(これを「競技場ゲーム施設」、Racetrack Gaming Facilityという)、また特定区域を設け、これら区域に限定的にゲーミング施設を設けること (これを「ロッテリー・ゲーム施設」、Lottery Gaming Facilityという)を規定している。内、後者は、既に認められていた部族カジノと同等のゲーム種を認めるという前提が制度構築の条件となった為、単なる機械ゲームのみならずテーブル・ゲームを含むクラスIIIのゲーム種となり、通常のカジノと変わらない内容になる。但し、法律上はあくまでもVLTの設置を前提とした施設である以上、「ロッテリー・ゲーム施設」という定義が用いられている。また、全体の仕組みとして、VLTを前提とした制度となったため、考えとしては法律上のゲームの所有権と運営管理はあくまでも州政府ということにならざるを得なくなった。そこで州政府(カンサス州ロッテリー委員会)が契約行為により、民間委託事業者をゲーミング・マネージャー(Gaming Manager)として起用することが認められ、同事業者に投資させ、施設を整備させ、一定期間独占的に運営させることを契約で認め、関連主体間で費用と収益を分担するというスキームとなった。(偶然だが)、我が国の自由民主党(政務調査会、観光特別委員会・カジノ・エンターテイメント検討小委員会)が従前、主張したカジノの設置の在り方と極めて類似的な考えになる。 また既存の法体系を基本としたため、州政府がカジノの法的な施行者となり、かつ既存の制度的枠組みにカジノの規制と監視の仕組みをも担わせる仕組みとなってしまった。結果、実質的なカジノの規制者は、ロッテリー全般を所管する行政委員会である「ロッテリー委員会」(Lottery Commission)となり、ゲーム施設の所有者は州政府の一機関となるカンサス・ロッテリー(Kansas Lottery)となる。一方、受託者の背面調査や適格性のチェック、運営行為の監視はロッテリー委員会ではなく、(競馬の規制・監視を担う)別の行政委員会である「競技・ゲーミング委員会」(Racing & Gaming Committee) が分担し、所掌する。また民間主体となるマネージャーの選定は、競技・ゲーミング委員会の一部として、「ロッテリー・ゲーミング施設選定委員会」(Lottery Gaming Facility Review Board, LGFRB)という独立的評価委員会を構成し、この委員会が最終的な事業者選定をするという複雑な仕組みとなった。 制度は現実から生まれるもので、妥協の結果こうなったのだが、結果として、州政府がカジノを所有し、運営権を保持しつつ、運営自体は民に委ねるという新しいモデルが生まれることになった。これは下記を意味することになる。
米国において、果たしてこの考えが汎用的な考えとなるか否かは定かではないが、為政者にとり、考えられる一つの選択肢となったことは間違いない。 |