コラム

COLUMN
インターネット・ゲーミング賭博法制(各国ネット賭博事情)

326. 各国ネット賭博事情・米国 ① インターネット賭博禁止の法制度(経緯)

2013年5月22日

 米国では、インターネットを利用した賭博行為をサイバー空間で提供する行為は、1990年代後半に自然発生的に生まれ、未だ明確な制度が無いままに、米国人顧客はこのサイバー空間で提供される市場に参加しており、制度の前にまず現実があったというのが実態になる。但し、米国では伝統的に賭博行為は連邦政府ではなく、州政府による規範により認められ、かつ州際間を超える賭博行為は様々な連邦法により規制を受けてきた。インターネットはかかる既存の概念を超える考えを前提とするため、オンラインによる賭博行為の提供は米国では法律的にはもともとグレーな領域であったことになる(必ずしも合法性が担保されているわけではなく、かつ違法性の根拠も明確ではなかった)。米国内では制度的リスクがあるという事情から、インターネットを利用して賭博行為を提供する事業者は、米国ではないオフショア(専らカリブ海や中南米)の軽課税国にサーバーを設置し、これらの国々を拠点にし、サイバー世界から米国民に対し賭博行為を提供するという仕組みが1980年代から90年代にかけて定着し、段階的に市場が拡大していった。かかるインターネット賭博事業者に免許(ライセンス)を与え、自国に本拠を置かせようとするカリブ海の国々がでてきたことも、この動きを加速させることになった。

 

 米国連邦司法省は、これらインターネットを利用したサイバー世界からの賭博行為の提供は明らかに連邦法に違反するというスタンスを当初からとってきている。その根拠とされたのは下記の様々な既存の複数の制度的枠組みでもあった。勿論これらはその過半が、インターネットが存在する前の旧態依然とした法律であり、電話や電報等の有線による情報伝達手段を用いた州際間の違法賭博行為を律する制度上の枠組みを、インターネットにも適用できうるとした法的解釈でしかない。インターネット賭博は何かという制度上の定義もなく、何がどう禁止の対象となるかなどが極めて曖昧な状況のまま、半世紀前の法律を根拠に、違法性が連邦司法当局により主張されてきたことになる。

 
  1. 1961年連邦「有線法」(Wire Act USC Title 18 Sec 1084)
  2. 1961年連邦「旅行法」(Travel Act, USC Title 18 Sec 1952)
  3. 1970年連邦「違法賭博業禁止法」(Prohibition of Illegal Gambling Business Act USC Title 18 Sec 1955)
  4. 1970年連邦「組織犯罪管理法」(Organized Crime Control Act 1970, PL 91-451 89 Stat 922)
  5. 2006年連邦「違法インターネット賭博執行法」(Unlawful Internet Gambling Enforcement Act, 31 USC Sec 5361-5367)
 

 内、連邦違法インターネット賭博執行法(UIGEA)のみは、2006年にできた連邦法となるが、やはりインターネット賭博とは何かを定義せずに、かつその違法性を新たに定義することなしに、賭博行為に直接参加する主体(胴元たる運営事業者並びに参加する顧客)ではなく、決済取引に関係する金融事業者を規制対象とし、彼らに限定的な義務を課し、インターネット賭博関連の金融取引を締め出そうとする制度である。顧客のネット賭博の支払い決済はクレジット・カードや電子マネーとなるため、米国在住の金融機関はかかるネット賭博取引に関する送金や決済を禁止するに至っている。但し、現実的には、必ずしも完璧な制度ではなく、国民のネット・カジノへの志向を全て禁止できるには至っていない。

 

 このほか州レベルでは、州法によりインターネット賭博を明示的に禁止する州が8つ存在する。もっともこれは、州法の規制の枠外で州外からインターネットという手段を用いて賭博行為を提供することを禁止する内容で、既存の陸上設置型カジノ等の権利と体制を保護するためのものでしかなかった。

 

 1997年以降、一部州政府並びに連邦政府・司法省はFBIとも連携し、上記連邦法の様々な規定を根拠とし、米国に存在している具体の(海外)事業者の摘発、経営者の逮捕、関連サイトの閉鎖、資産の没収、起訴等を執拗に実施し、法の執行を厳格に行う方針と行動をとってきた。インターネット賭博はあくまでも違法とする連邦政府・司法省の意思表示であると共に、一種の見せしめにより抑止効果を狙っている節もあった模様である。この節目が変わってきたのは2011年の司法省・法制局の見解で、従来連邦法上の違法の根拠とされてきた有線法はスポーツ・ベッテイングのみを対象とするという見解であり、これ以外のポーカーや様々なゲームは対象外とした。これが、連邦法で禁止されていないならば、州法の権限で州法によりインターネット賭博は認めることができるという解釈を生み、2012~2013年の間に、一部州ではインターネットによる賭博を認める立法措置がなされ、2013年5月よりネバダ州にて州民を対象とした一部賭博種のインターネットによる提供が開始されるという混沌とした状況となってきたのが現状である。連邦法と州法との間の根本的矛盾は明確に解決されたわけではない。現実が先行し、制度は後追いで整備されることになるのであろう。