課税行為はゲーミング賭博法制の最も重要な政策的課題になる。但し、これに対し何らかの共通的な考えがあるわけではなく、国や地域によっては、考え方は全くバラバラで千差万別といった方が実態に近い。これは、国・地域毎に、市場の大きさや顧客の構造等が異なり、想定収入規模に応じて税率や課税の考え方を決めているという側面があるからである。業としてのゲーミング賭博は、キャッシュ・リッチで担税力があり、税源としては理想的となるがために、過去様々な国々で様々な為政者により多様な課税手法が駆使されてきたという背景もある。要は多様な形式の税を多様な形で賦課することができる業態がゲーミング・カジノであるといってもよい。だからこそ為政者がこれに注目するわけである。
カジノにおける課税行為の基本は、売上(ハウス総勝ち分、即ち顧客総損失分)に対する一定率の特別課税を基本とする(総粗収益に対する一定率の課税となる)。これに加え、特定資産課税としてゲーミング・カジノに必須のテーブルや機械の設置台数等のハウスの保有資産に固定額の税を課すという考えや、関連しうる付帯施設等における顧客の消費に対し特別奢侈税等を課す考え方等もある。売上に対する課税は総粗収益課税ないしはゲーミング課税等と呼称されるが、一定率課税の場合もあれば、段階的逓増率課税の考え方が取られることもある。またゲーミング賭博をサービスと見なして、ゲーミング課税に加えて、通常の付加価値税を全体の売り上げに賦課するという国もある。尚、当然のことながら、ゲーミング課税とは売上に対する特別課税で、費用控除後の企業所得に対する課税は通常の企業と同様に課せられる(ネバダ州、マカオ等は例外で各々州所得税、企業所得税はカジノの総粗収益には課せられない)。尚、ハウスによる顧客に対する与信付与は、本来発生主義で収益と課税額を確定すべきだが、米国ネバダ州では慣行として現金主義が採用されている(与信付与が売上の半分を占め、不確定要素を抱えたまま課税行為がなされることへの業界による反発があったからだが、必ずしもこれは一般的な慣行とはいえまい)
一般的に費用控除前の売上に課される総粗収益課税の税率は、市場にて許容できる範囲で均衡する。例えばオープンな競争市場にある場合、投資を誘致し、競争市場への参加者を増やすことが税を増やすことにつながるため、税率は6~10%と低く設定される。一方地域独占市場で、許諾される施行者の数が限定され、確実に事業者に超過利潤が生じると想定される場合には税率は20%~30%以上と高率になる。米国の州における基本は定率課税だが、欧州では逓増課税を取る国が多く、収益レベルをレーヤーに分け、各レーヤー毎に段階的に税率が高くなる設定が行われている。この場合、最高レーヤーでは何と80%の税率となる(全体にならした実効税率としては約50%程度になるが、それでもかなり高率ではある)。税率をどう決めるのかは政策選択の問題ともなるが、市場における担税力を判断し、市場で許容できるレベルに税率を設定するというのが基本である模様だ。もし、明らかに税率が高ければ、売上げに対する課税である以上、大きな償却負担はできず、これでは巨額の投資はできないということになる。逆に税率が低ければ、より多くの投資額を期待することもできよう。欧州諸国に米国流のカジノを核とする巨大な複合観光施設が存在せず、そもそも米国のカジノ専業事業者の参入が殆どないのは、高い税率を米国系事業者が忌避しているためであるとする説がある。税率はこのように、企業行動を大きく変え、市場における施設のあり方・規模・投資活動をも大きく変える重要な要素にもなる。
単純ではないのは、売上に対する課税が唯一の課税とはならないという場合もあることか。売上に対する課税は売上に応じて変動し、税収は安定しない。一方施行者が保持する機械や器具等の特定資産に対し資産課税を賦課すれば、ある程度固定した税収を確保できる。あるいは、入場税や奢侈税、特別ホテル滞在税のような形で、顧客に税負担を転嫁し広く、薄く、税を課す場合には、顧客の数に比例して税収を増やすことが可能になる。事業者のみに税を課すのかあるいは、顧客にも税を課すのかは大きな政策上の選択肢でもある。また顧客による大勝の場合、顧客が所得申告することになるのであろうが、一部支払い(特にスロット・マシーンの大勝)に関しては、(外国人を含めて)源泉税を課すという手法も実践されている。小さな額の顧客の勝ち分は全く問題にならないだろうが、これが大勝になると、さすがに顧客であっても、課税の在り方がより厳しくなり、施行者が源泉徴収等で一部徴税に関与することもある。
尚、課税行為には誰が課税するのか、課税のメリットをどう分担するのか、税を如何なる目的のために徴収し、如何なる目的のために支出するのかという様々な課題が存在すると共に、課税対象額が施行者による費用控除前の総売り上げになることより、場合によっては調整が必要な部分なども生じてくる(例えば、チップ・金銭貸付行為があり、回収できていない場合、あるいは最終的に不良債権となった場合等、税務会計上の措置と関連し、売上確定に調整が入ることがある)。