諸外国では、制度的にその負担が義務化される税や納付金あるいは、規制や監視に関する費用分担とは別に、特定複合観光施設(IR)区域を設定する地方公共団体独自の事情により、当該地方公共団体が、何らかの地域貢献に関する資金拠出を地方貢献分担金として民間施行者との間で契約的に取り決め、施行者の負担を求めることがある。あるいは、契約的な枠組みの中で、(義務とはしないが)民間施行者の自主的な努力規定を設け、地域社会における様々な活動への財政的貢献を求めたりする等の考え方もある。特定複合観光施設区域の指定を受け、開発と施設の実現・運営を担う民間事業者との間で協定が締結されるが、この枠組みの中で、両当事者が任意に取り決める事項でもあり、法律事項ではなく、かつ強制されるべき事項でもない。但し、複合観光施設区域を設定する主体が地方公共団体である以上、事業者選定の要件として、かかる地域貢献義務を事業者候補に提案させたり、これを一つの要件として公募の前提とすることにより、施行者自身の積極的提案を募ったりすることはおかしな考えではない。
上記は、税や納付金の形式を取らない形での地域貢献義務や地域社会の発展のための地域分担金の考え方で、諸外国、特に一部欧州諸国ではかかる手法が採用されている。これには例えば下記の如き考え等がある(勿論、事例であって、これだけということではない)。様々な形での地域貢献を担うことにより、地域社会や地域住民からの信頼と信用を得て、エンターテイメント・カジノ施設の地位向上を図り、結果的に事業自体が地域社会から支えられ、地域社会に根づくことを志向する考えになる。
① 収益の一部の地域再投資義務:
粗収益の一定率、あるいは事業収益の一定率を当該施設や当該地域における事業へ再投資させる義務を課す考え方になる。場合によっては公益的な事業や社会インフラへの投資等地域への貢献性がより高い対象への投資が義務付けられることもある。投資であって、費用負担ではないために、施行者にとっては対応しやすい考え方になり、地域への再投資により、事業をより地域に密着化させ、安定化させるという効果がある。
② 地域社会との良好な関係を維持するための費用分担:
規制機関、地方警察、地方公共団体、事業者、住民代表等で構成される地域環境安全委員会等、カジノ施行者と地域社会の利害関係者が地域の環境安全保持に関して利害調整や様々な施策を行う枠組みを作り、これを維持する為の費用を分担する考え等になる。地域社会の関心事に対し、積極的な対応を図り、そのための費用を分担することで地域社会へ貢献するという考えでもある。
③ 地域文化振興、地域振興イベント等のスポンサー負担や財政支援:
地域社会固有の文化活動の支援、芸術家の支援、あるいは地域コミュニティーが主催する様々なイベント等のスポンサーあるいは一部費用負担等の財政支援で、資金が集まりにくい地域社会の文化活動に対し、積極的な支援を担う考えになる。企業のCSR的な活動でもあるが、地域社会における施行主体の知名度向上や社会的認知の向上等に大きな効果を発揮することがある。
④ 地域社会における老人子供等恵まれない人々に対する財政支援:
老人や子供等地域社会における恵まれない人たちに対する財政支援で、福祉的な活動となるが、地域社会への貢献活動の一つになる。イベントへの招待や、様々な支援活動等地域社会へ溶け込む一つの手法として用いられることが多い。
⑤ 地域固有の賭博依存症問題に対する対応支援・財政的支援:
別途制度的な枠組みを設け対処することもあるが、施行者の自主的な行動として、地域社会における関心事となる賭博依存症問題に対する地域レベルでの様々な活動等に対して、財政支援等を行い、地域社会に貢献する考えになる。
上記はいずれも協定上何等かの規定を根拠とすることになるが、制度の在り方次第では公租公課の一部になる場合や、費用化できる場合、あるいは単純に寄付金扱い(有税、無税)となる場合等もあり、施行者にとっての負担の在り方は異なりうる。地域住民もカジノ施設の顧客たりうるわけで、かかる追加的費用は、地域社会や地域住民との良好な関係を保持するための必要なコストと考えるべきなのであろう。かかる考えを地域貢献分担金(Local Contribution Levy)と称するが、大規模集客施設を設置することによる地域社会への影響度を軽減する義務が設置者にあるという考え方から、これを影響度軽減分担金(Impact Reduction Fee)と呼称することもある。最近の米国では、制度としてこの概念を取り決め、その内容は地方政府の判断、交渉に委ねるという事例も出てきている(米国マサチュセッツ州)。