欧州では、1996年にフィンランドで初めてインターネット賭博が認められ、施行されたことがネット賭博の嚆矢になった。その後、インターネット賭博は欧州市場にて飛躍的な発展を遂げ、2008年レベルでは、欧州全賭博売り上げの7%、約65億€を占め、これが2012年には110億€まで発展したとみられている(出所:European Gaming & Betting) 。一方、EU域内では、インターネット賭博を規制する共通の規範はなく、インターネット賭博も他の賭博種と同様に、各国毎の規制がなされることが原則になる。当初は多くの国においてオンラインによる賭博提供は禁止の対象でもあったが、段階的、部分的に認められるようになり、2010年現在では、13の国が何らかの形でインターネット賭博を認めており、更に6つの国では規制を緩和し、認める方針を示唆している。この結果、禁止を標榜している国はほんの僅かでしかない。もっとも認めている国でも、自由な競争、自由な供給を認めているわけではなく、公共秩序を維持するために、一定の供給規制を採用している国が過半で、国営企業や一部企業のみが国内の地域独占を得て、オンライン賭博を提供する場合が多かった。欧州では、この地域独占が必要か否かに関しては様々な議論が起こった。加盟国の内一部の国は、独占的な賭博市場から得られる収益を(他国に渡さないために)国内的に占有しているだけで、賭博行為も単なる商業的経済活動に過ぎず、自由なサービス取引の対象にすべきで、独占行為は欧州法違反ではないのかとする主張である。この結果、様々な賭博事業者や民間組織が、欧州委員会と欧州裁判所に提訴することになった。
EU域内において、賭博行為は各国の公序良俗に係わる問題となるため、EUの共通的な規制の対象にすることは極めてセンシテイブな課題なってしまう。一方、インターネット賭博は、国境を跨がり供給されるため、国毎の規制が存在する環境を崩すことにつながり、EU域内においてなんらかの制度的環境の調和が必要と長年議論がされてきたのだが、必ずしも意見の一致をみているわけではない。欧州委員会も汎欧州的な意味で、賭博行為に関する加盟国の法律を調和する考えは当面無いことを主張している。欧州裁判所における判例は、段階的に、一定の規範の枠組みをこの問題につき提供しつつあるが、必ずしも全てが明確になっているわけではない。既に示された判例によると、欧州裁判所は域内移動の自由(欧州条約49条)は賭博サービスにも適用されるとしている。但し、欧州裁判所は、賭博行為は、倫理的、宗教的、文化的側面をも引きずっており、不正・いかさまという犯罪を引き起こすリスクは高く、個人および社会に危害を及ぼすことがある点を指摘し、消費者を保護し、公共秩序を維持(犯罪・不正行為防止)し、かつ賭博行為が民間利益の源泉となることを防止する目的をもつならば、(自由な賭博サービスに対する)加盟国による制限は正当化されるとした。但し、「かかる制限は矛盾なく、組織的になされるべきであり、非差別的でかつ本来の目的を達成するために必要となることを越えてなされるべきではない」としている。
一方、欧州委員会は、2006年から2008年の間に、特定のネット賭博行為を独占的に一国内で認めつつ、売上増大や税収増を企図するプロモーションを商業的に担っている域内の国々に対し、上記欧州裁判所での判例を根拠とし、是正勧告、制度改革勧告を実施した。市場独占が商業的行為として行われているならば、消費者保護も公共秩序もへったくれもないわけで、単純なビジネスに過ぎなくなる。これが事実ならば、独占を廃し、国内市場を開放し、より競争的な市場にすることが適切という論拠になる。欧州委員会の立場は、これら制度改革要求は、国家による独占行為の存在そのものを否定しているわけではないし、かつ、賭博市場の一般的な開放ないしは規制緩和を要求するものではないとしている。
対象となったのはスポーツ・ベッテイングの規制緩和、独占の放棄と管理された市場の開放でもあり、これには下記背景もあった。
① 加盟国のスポーツ関連組織にとり、政府ないしは政府の許可による賭博独占収益がその活動収入の大きな要素を占めていたという事実があり、この枠組みが崩れる事に対し、スポーツ関係者より不安があった。一方、もし別途ネット賭博事業者から類似的な収益配分の仕組みがあれば、逆にスポーツ活動に対する支援資金拠出は増える可能性もあった。
② 情報手段の加速度的な発展により、スポーツ・イベントはどこでも同時に安易に映像として見られるようになり、スポーツの勝ち負けに関するベッテイングの人気は欧州域内では国を問わず極めて高くなった。何処の国の事業者がベッテイングを提供するかは実は庶民にとっては殆ど関係が無く、インターネットの利便性の良さが、庶民の人気を惹きつけているわけで、これを管理・監視の対象にし、市場を活性化し、税収を確保することが最善の選択肢でもあった。
③ スポーツ、スポーツ競技の健全性を保持することは重要で、スポーツ自体が不正やいかさまにより、操作されるようなことがあってはならないこと、オンライン・スポーツ賭博市場が増大するにすれ、腐敗や好ましくない慣行が増えるリスクがあることに対する根強い反対も存在し、厳格な規制や監視・管理の仕組みが必要とされていたという事実もあった。
上記の結果、欧州においては、インターネットを通じたスポーツ・ベッテイングは段階的に規制が緩和され、実質的に市場が開放されつつある。