今や数千以上とも言われているインターネット賭博サイトは、一方ではかなりレベルの高い規制の対象になっているサイトや事業者があると共に、他方では全くの規制を受けていない信頼性の無いサイトや事業者が混在し、顧客にとり信頼できるサイトや事業者を選定することが難しい状況が生じている。この状況を改善し、顧客を保護する目的で、一定の技術標準やあるべき慣行を業界内で定めて、そのパーフォーマンスが一定のレベルであることを認証する非営利民間団体が2003年以降英国ロンドンをベースに設立されるに至っている。E-Commerce & Online Gaming Regulation and Assurance(通称e-Cogra)という団体で、①顧客保護の為の技術標準の策定や、関連ソフトウエアの認証、②サイト・運営事業者に係わる安全性認証、③顧客ペイアウト・確率値の定期的モニタリングによる検証・監査等を実施する。最もこの非営利団体をバックアップしているのは、世界最大のインターネット・カジノのライセンサーであるMicrogaming Software Systems Ltdと実際のインターネット・カジノであるCasino-on-netを所有・運営している 大手運営事業者であるVirtual & Holdings Ltdである。実際の運営資金拠出はこれら二社と、認証に係わる実費負担等により賄われていると想定される。但し、独立性を担保するため、役員の半数は独立的な監査人や欧米の元規制当局責任者等から構成され、個別企業のインタレストが入らないような配慮がなされているとのことだが、情報公開は完璧ではなく、真偽の程は確認できない。
興味深いのは、非営利民間団体とは言え、規制機関とは全く異なった視点から安全性や公平性を担保する仕組みを支えていることにある。
例えば下記諸点になる。
① 顧客に対する適切な情報の提供という意味で、一定の運営・慣行基準を策定し、この遵守を事業者に要請する。また、定期的にサイトのデータログ・ファイルを検証し、平均顧客ペイアウト率をチェックし、その結果や監査の結果を公表し、この評価を「安全・安心シール」としてゲームサイトに開示する手法を取っている。また、顧客間との間に係争が生じた場合には、中立的な調停者として介在することを表明している。
② 実際のサイトで用いられるソフトウエアは、一般標準慣行(e-Gap, Standards of Generally Accepted Practices)に準拠し、e-Cograで認証されたソフトを用いることが条件となっている。この結果、ソフトウエアの開発事業者を認証すると共に、ゲームの運営事業者をも認証するという手順を取っている、
事等である。技術的な標準規範の公平性を担保することにより、信頼性を確保するという考え方であろう。
インターネット・カジノ関連業界自体が、自主規制により、公平性・安全性を主張し、認証や認定の手順を踏まざるを得ないということは、市場には、まともとは言えない事業者や、不正・いかさまも多いということを示唆している。但し、試みとしては斬新な側面もあり、うまく機能すれば、規制の弱い規制国の規制を良い意味で補完することになるのかもしれない。下記がその要点となる。
① 通常の場合、一定国の規制当局の正式認可を受けたサイトであることが真面な事業者であることの証拠になるが、これに加えて更に、「公正・安全シール」が付されているということは、業界自主規制の対象として、非営利団体の検査を受け、認証を得ているとうことになる。よってインターネット・カジノ・サイトのHPには規制機関の認証を受けている証拠である一国の規制機関のロゴと共に、このe-Cograの安全・安心シール・ロゴが添付されていることが多い。顧客から見た場合、それだけ、安全性が高まるということでもあろう。
② 実際のデータを定期的に計測、検証し、対顧客ペイアウト率や確率値を検証し、個別認証(Certificate)を発行している。個別のインターネット賭博サイトから認証サイトにリンクが張られており、顧客はその内容を予め確認できる(各国の規制機関は、かかる詳細のデータ―を捕捉し、かつ顧客に開示する等のきめ細かい認証をしているわけではない為に、それなりの価値はある)。
③ 実際のオンライン・ゲーミング業界は、不断の技術開発や、ソフトウエアの開発等により、常に変化しつつあり、一国の規制当局が完璧にこれら技術動向を捕捉し、規制の対象とすることは難しい状況もある。この意味では、実際にソフトウエアの基本を押さえている事業者がソフトウエア・プログラムも含めて、公正さや安全性の確保に参画し、市場を自らが中立的な立場から監視することは、極めて合理的な側面もある。
尚、このe-Cograの他にも、様々な民間の任意団体が、自らサイバー世界における規制者として名乗り、あたかも一国の規制機関のように、オンライン・サイトを認証し、認可を付与するということも行われている。但し、これは怪しげな主体による怪しげな認証行為になり、とても信用がおける内容ではない。かかる怪しげな主体が堂々とでてきて、何らのコントロールもなされておらず、これがまともな規制国や規制機関と共存している側面がある所が、サイバー世界の本質なのであろう。