欧州のゲーミング・カジノの制度と施設には下記等の特色がある。
①民設民営が基本:
欧州においても、カジノの所有・運営と経営は、厳格な規制と規律の対象となることを前提に民間主体に免許を付与し、民間主体がその施行を担うことが基本となる。この点は、米国の制度や仕組みと基本的には類似的である。一種のコンセッションを国が民間主体に付与し、これをもとに民が資金調達を担い、施設を整備し、運営することを認め、これに対し、政府が売り上げに課税するという考えが伝統的な枠組みになる。国が許諾権を保持し、規範を制定し、民に免許を与えて、施行する考えもあれば、国は関与せず地方政府に租税権を含む全ての権限を委ね、地方政府が自らの判断で施行のあり方を律する考え方等もある(後者は例えばドイツ、スペイン等になる)。また、公的な民間主体や非営利法人に施行の独占権を委ねる考えも一部の国では存在する。
②単位面積当たりの施設集積度の高さと税率の高さ:
立地や施行数を規制する国でも、競争は明確に存在し、国同士、あるいは国境を越えた地域間、あるいは国境周辺間での都市間競争等も存在する。一般的に、一定の地域における単位面積あたりのカジノ施設の集積度は高いこと、また各々の国においては、米国等と比較すると、基本的には税率が高いことが欧州における大きな特色になる。よって、償却負担ができにくいという事情がある為に、資本集約型施設は少なく、施設規模もあまり大きなものはない。またかかる事情に基づき、米国系事業者は欧州市場に興味を示しておらず、本格的にこの市場には参入できていない。
③市場管理施策:
市場自体は国毎に分断化・細分化され、多様な施行のあり方が国毎に存在する。施設の在り方を需要と供給に委ね、市場に関与すべきではないとする立場の国もあれば、国が市場自体を管理し、その施行数や設置場所を制度により規制する国もある。後者は、施行数が増え、かかる施設が乱立すれば、過度の競争により個別事業の事業性を悪化させ、施行に悪が介在するリスクを高めるという理由から、市場を管理することこそが、顧客にとっての安全度を担保することになるという考え方に立脚する。
④賭博行為の米国化:
1980年代以前の欧州におけるカジノ施行は伝統的なテーブル・ゲームが主体でもあったが、1980年代以降、スロット・マシーンやビデオ・マシーン等による電子式機械ゲームが欧州市場にも本格的に導入された。これが庶民の人気を呼び、カジノ施設の収益増に貢献すると共に、現在に至るカジノの事業的成功をもたらしたともいえる。一般市民にとり、よりアクセスや参加がしやすいゲームの形態が、大きな消費をもたらし、欧州カジノのあり方を大きく変えている。
⑤地域社会との共生:
地域住民を来訪観光顧客と共に重要な顧客層と考える一部の国では、地域社会と地域住民の支持と信頼を獲得する必要性から、カジノ施行が地域並びに地域住民にもたらしうる悪影響を縮減しつつ、地域社会に様々な財政的貢献を実践することにより、地域社会との共生を図るという考え方が発展している。地域社会に対する貢献が制度や契約上の義務となっている国もあれば、倫理的規範のみで民間によるボランテイア的な貢献がかかる考えを支えている国も存在する。
⑥まず事実ありき、制度はその後:
欧州では、全ての国において、まず精緻な制度があり、その上で施行が図られてきたわけでは必ずしもない。事実として施設が存在し、規制・制度が存在しない状況から、新たに制度を設け、カジノ賭博の位置付けを明確にするように発展してきた国が多い。但し、整合性がなく、矛盾のある制度も少なくない。この結果、様々な国において、これを是正し、市民社会の成熟度や市民意識の変化に伴い、制度や規制を近代化しようとする動きが生まれた。現代社会はその過渡期にあるが、制度的にはここに、古い欧州からの脱却と新しい欧州への発展を見ることができる。
⑦制度の現代化、近代化への動き:
1980年頃までは例えばイタリア・マフィアがフランスの一部のカジノに介在するという事象も存在していた模様である。悪、組織悪、不法行為は過去存在していた事も事実ではあろうが、カジノ施行への関与と参入は欧州大陸においても、最も厳格な規制を受ける分野となっており、現在では、施行に関与する企業や産業全体から組織悪は排除されている。事業者自体が、段階的に集約し、寡占化され、株式上場等に伴い透明化し、産業が成熟化したという事情もある。施行に伴う社会的費用や社会的な影響度を問題視する観点からの議論、あるいは宗教上・倫理上の観点からその是非を問う議論は欧州においても存在するが、施行自体が悪や組織悪を増長するという議論は欧州においてはあまり存在しない。歴史的事実としてのカジノ施行の存在や、現在に到るまでの慣行や経緯がかかる視点を支えているのであろう。