オーストリアにおけるカジノの制度化は1933年に制定された財務省による「カジノ政令」(Spielbankverordnung)がその基本となる。この政令により、①国がカジノ運営の専権を保持すること、②観光振興とその維持、税収確保・投資誘致・雇用拡大を施行の目的とすること、③実際の施設整備・運営は民間事業者にライセンスを付与して、民に委ねること、④国が規制者、監督者として許諾民間事業者を監視すること等が取り決められた。この結果、1934年に二つのカジノが開設され、34年から38年にかけて複数の施設が更に設置された。当初は外国人顧客のみを対象としたが、1935年以降オーストリア人も入れる施設となっている。一方、1938年に至り、当時の社会党政権はもっとも著名であったバーデン以外のカジノ施設を全て閉鎖、一旦、カジノの運営はすたれることになった。その後これが再開されるのは、第二次世界大戦となり、1950年にライセンス制度が復活し、制度の内容も再整備され、1955年以降、本格的なカジノ施設の運営が施行され、現在に至っている。制度としては、1989年の連邦ゲーミング法(Gluckspielgeseetz、GSpG Federal Law on Games of Chance)がカジノ、ロッテリー等の賭博種を包括的に規制する仕組みとなった。一方、ベッテイングは、連邦法ではなく、個別州法により規制される仕組みとなっている。
カジノ・ライセンスを取得できる民間主体は1)オーストリアに在住する同国企業で、2)自己資本比率や実績等の要件が法定されており、国の要求基準を満たせる企業は当初よりカジノの運営を担っていたカジノス・オーストリア社(Casinos Austria AG)しか存在せず、歴史的な経緯により、1社独占となる状態が1955年以降継続した。法は12の施設を上限として規定し、市場環境や経済状況を勘案しながら、段階的に立地・施設数を増やす施策がとられたが、現在に至るまで同社が全ての施設を独占して運営している。またカジノの設置には立地点の自治体の議決を取得することが要件となっている。現行ライセンスは1999年12月18日行政令により15年の期間でカジノス・オーストリア社が独占している。一方、2010年6月に制度自体が改定され、欧州域内の他国の企業も参入できるようになり、事実2011年8月連邦財務省は(既存ライセンスの更新を含む)15の地上設置施設のライセンスと1ヶ所のポーカー・ルームのライセンス権の公募入札を公表したが、単純に既得権益は壊されていない。尚、カジノス・オーストリア社は民間企業で主要株主は、金融機関、メデイア関連企業、国立銀行の子会社等になり、現在では欧州各国に進出したり、南アフリカにも投資したりしており、積極的な海外展開を図っている。ロッテリーはやはり同法に基づき、Osterreichische Lotteries GmbH(Austrian Lotteries)が一社独占権を経て、ロト、トト、スクラッチ・カード、電子ロッテリー、VLT等をカジノ施設とは別に提供している。
オーストリアでは、当初から一社独占が志向されたわけではないが、小国であり、国内市場も必ずしも大きなものではないという事情から、
① 事業者が複数の場合、競争が過熱すると消費者保護の観点から好ましくないこと、また事業者による魅力ある施設作り(高額の投資)を期待するためには競争を制限した方が、効果が高いこと、過激な競争による事業者破綻による社会的コストを避けられること、
② (カジノ施設に関しては)観光地は冬のリゾート、夏のリゾートと別れ、シーズン毎に職員を効率的に移動でき、一体的効率的な運営が可能になること、
③ 好ましく無い人物の情報管理等に関しては単独の事業者の方が確実、安全であること、
等が複数社による競合が生じなかった背景にあった。尚、現状では、国内市場は既に飽和状態にあり、施設数を現在以上に増やす余地は無いと政府は判断している。
主務官庁は財務省で、財務大臣はライセンス付与、停止、剥奪権を保持するとともに、ゲームの規則や営業規定等の制定、変更は全て、財務大臣の認可事項になる。また、公益を保持する為、財務大臣は、下記権限を保持している。
① 問題が生じた場合、特命の官吏または代理人を派遣し、問題の処理にあたらせる権利。
② 監査に当たり、補佐を関連省庁に要請する権利。
③ 監査役会に出席する権利(決議が法に違反する場合、財務大臣が拒否権を保持している)。
④ 記録閲覧権、不明な資料等の請求権等。
この様にオーストリアでは、歴史的な経緯から、賭博を管理する固別の規制機関があるわけではない。財務省が制度上、ライセンス事業者の経営を監視する権限を付与されてはいるが、1社独占であるために、この事業者を通じて賭博行為の施行を監視するという立場にたっている。よって、一定の明確な監督権限はあるが、詳細な規則等もあるわけではない。機械ゲームの認証、監査も国の認可を必要とせず、法的な制限もない。かつ指定認証機関も存在せず、全てライセンスを得た独占事業者の自己責任の範囲となり、明確な規制は存在しない。尚、税制は、カジノはテーブル・ゲーム総粗収益に対する段階的累進課税(35%より最高80%)は国が徴収するが、スロット・マシーンの総粗収益に関しては地方政府が独自に課税権を保持し、徴収するという形式をとる。ロッテリーに関しては、税率は2~27.5%である。このほか、企業所得税、売上税等は一般企業と同等の課税がなされる。税の徴収並びに納税監査は税務署の管轄となり、企業活動の監査、決算、売り上げ計算の監査等を実施している。
オーストリアの制度は古い制度がそのまま現在に至っているもので、必ずしも精緻な制度や規制があるわけではない。但し、市場としては安定し、施行も問題なく、しっかりしているのは、国民が成熟し、社会の中でカジノ・ゲ-ミングの認知と許容度が一定の地位を得ており、大きな問題も生じていないからのであろう。但し、欧州委員会の圧力により、段階的にこの1社独占体制は崩れる兆候を示しつつある。