スエーデンでは、同国刑法の規定により、国が認証していない賭博サービスを提供することは犯罪行為となる。賭博行為を制限する根拠は、公共秩序を維持し、犯罪を抑止し、依存症を防止するためとある。例外的に、制度として認められた賭博行為は、「ロッテリー法」(1994年Lotterilagen)と「カジノ法」(1999年Kasinolag)という二つの法律に基づいている。このロッテリー法が定義するロッテリーとはVLTやパリ・ミュチュエル賭博等を含むかなり広い定義となっている。この二つの法律により、全ての賭博行為は、賭博種毎に国、地方政府、国の機関によるライセンス交付の対象となり、かつ全ての賭博行為は、国の機関である「スエーデン・ゲーミング委員会」(Gaming Board for Sweden)が法の全般的な施行の監視・監督を担う役割を担っている。地域単位でのロッテリーのライセンスの付与は市、郡等の地方政府が権限を保持し、専ら非営利団体にライセンスが付与されている。その他の国レベルでのロッテリーや様々の賭博種は国が国営企業となるATG社及びSvenska Spel社に対し、独占的なライセンスを付与しており、一部のゲーム種に関しては上述したスエーデン・ゲーミング委員会がライセンスを付与するという複雑な仕組みである。一方、陸上設置型カジノは、別途「カジノ法」で規定され、国営企業による独占が制度上明記され、上述したSvenska Spel社が独占事業体としてその運営を担っている。同社が運営するカジノ施設は4ヶ所になる(ストックホルム、ゴータベルグ、メルモ、サンズヴァル)。
上記事情により、国営独占企業であるSvenska Spel社の業務範囲はスポーツ・ブッキング、ドッグ・レース、ゲーム機械運営、ロッテリーの組織化、カジノ等の幅広い分野になり、別の国営企業であるATG社が競馬賭博を提供している。また、2002年の法改定により、Svenska Spel社はデジタル・プラットフォームを運営できるようになった。これに基づき、2005年11月には、オンライン・ポーカーも独占的に開始し、インターネットを活用したロッテリーや様々なゲームの提供が同社の主要な製品・サービスともなっている。この意味では、Svenska Spel社は、複合的な国家による独占賭博運営事業者的な存在になる。国全体の賭博市場の規模は2010年時点で420億SKE、事業者の総粗収益レベルでは170億SKE(19億€相当額)、内VLT等のゲーム機械・ロッテリー、スポーツ・ベッテイングが圧倒的なシェアを占める。
この様に、スエーデンの特色は、国がかなりのウエイトで賭博市場を独占している状況にあった。かかる国の独占行為が適切といえるのか、市場を開放すべきではないのかという懸念が社会的に生じ、スエーデン国内でも、過去様々な訴訟が提起されることになった。一方、スエーデン行政最高裁判所は一貫して国による独占行為を保護する判決を下している。国家による独占は、全体としての社会と個人を保護し、公益に適っており、正当化されるとする論拠になる。これに対し、2004年10月に、欧州委員会は賭博行為の独占は、公法間での整合性を保持し、組織的に賭博行為を制限するという目的のためになされなければならない旨を通告したが、スエーデン国内法廷は、国内法による独占は釣り合いがとれ、かつ非差別的として、欧州委員会に反発した経緯がある。2006年1月、スエーデン政府による国内ベッテイング市場の正式な調査報告は、オフショアのベッテイング会社がネットを通じ国内消費者にサービスを提供することを止める手法は最早無く、国内法と欧州法との整合性も必要というスタンスをとった。2006年4月に欧州委員会は、その他の国と同様に、スエーデン政府に対し、スポーツ・ベッテイング・サービスを制限する国内法の措置が、域内の自由なサービスを保証する欧州条約第49条に違反しているのではないかとして正式に状況報告を要求した(あくまでもスポーツ・ベッテイング分野のみでかつ、欧州条約との整合性を問うたもので、その他の課題については言及がない)。その後の政治的状況は、政権交代もあり、Svenska Spel社による独占を廃止し、特定のスポーツ・ベッテイング分野に関しては、ライセンス許諾制により、外国事業者による参入を認めるという方向へと転換することになった。よって、今後、制度と体制の再構築が行われることになる。
スカンジナビア諸国はそのほとんどが、国家による賭博の独占、国営企業による独占という体制をとっていたが、欧州インターネット事業者による法的闘争や欧州委員会によるこの分野に対する明確な規制緩和の方向を受け、これらの国々における国家独占体制は段階的に、かつ実質的に崩れていったことになる。今後は、一定の管理下で、国家の壁を乗り越えた自由な競争市場が、段階的に個別賭博分野毎に成立することになると想定される。この実現も時間の問題であろう。