オセアニアの過半の地域ではカジノが認められる遥か以前より金銭を賭して金銭を取得するスロット・マシーンがカジノ施設とはいえない施設で許可され、運営されてきた。オーストラリアのニュー・サウス・ウェルス州では、私的な非営利団体となるクラブ施設に対し財政的支援を与えることが目的で、1956年にかかる賭博機械をクラブ施設に設置することが認められた。これが契機となり、その他の州でも主に1990年代以降、やはり類似的な非営利団体に機械式賭博施設の導入が認められた。これらカジノ外に設置された電子式ゲーム機械(EGM, Electronic Gaming Machine)は、その後生まれたカジノにおけるスロット・マシーンの設置数を遥かに上回るが、機械自体に何ら差異があるわけではない。オーストラリアには2011年では200,057台、ニュージーランドには2012年3月時点で18,001台(施設数は1,403)のゲーム機械が存在する。これら機械はその約58%が会員制クラブに、35%がホテルやパブに、7%がカジノに存在し、市場構造は地域毎に異なる。尚、オーストラリアでは従前はクラブ・パブのゲーム機械ライセンスはアルコール飲料販売許可と類似的な仕組みで申請と許諾がなされ、当該地域におけるライセンス判事が許諾を与える方式が採用されていたが、2000年以降はほぼ全ての州で段階的に他の賭博種と同様に、統一的な規制機関が規制・監視をする体制になりつつある。ニュージーランドでも既に2003年以降、単一規制機関が規制・監視をする体制に転換した。
歴史的に生じた金銭を賭するゲーム機械の許諾は、州毎に異なった状況をもたらしている。
即ち;
① カジノ外の会員制クラブ・ホテル・パブ等にスロット・マシーンが数多く存在し、カジノの設置台数を遥かに上回る状況の州・国(ビクトリア州、ニュー・サウス・ウエルス州,ニュージーランド):
② カジノ外のゲーム機械設置は認めず、カジノにおいてのみゲーム機械が存在する州(西オーストラリア州)。もっとも同州ではVLT(ビデオ・ロッテリー・ターミナル)はカジノの外でもその設置が認められており、実態面では①に近い。
③ カジノにはゲーム機械設置は認めず、カジノ外においてのみゲーム機械が存在する州(ACT~キャンベラ首都地域~)
等の差異がある。
ニュー・サウス・ウエルス州、ビクトリア州、ニュージーランド等におけるこれらカジノ外に設置されたゲーム機械の隆盛は、上述したように専ら非営利団体である会員制クラブを財政的に支援する制度的措置の中から生まれた。クラブは非営利団体であるため、その収益は社会的貢献活動や自らの施設の拡充等にのみ支出可能で、収益を配当することは認められていない。ホテルやパブに設置されるに至った理由は同様に、ホテル産業に対する財政支援策として適用されたことを意味し、政治的妥協の産物でもあった。これら措置の結果として、90年代以降飛躍的な設置台数の伸びを示したというのが実体になる。ホテルは営利事業でもあり、クラブとは異なりゲーム機械収益はホテルにとっての収益増をもたらすことになった。尚、キャンベラ地区でカジノにスロット等の機械が認められなかったのはカジノ設立前に約10の巨大な会員制クラブが存在し、これが政治的圧力を行使し、競争を制限させたという経緯がある。事実キャンベラでは、1,000台以上のスロットを設置する「カジノ的な」巨大会員制クラブも存在する。尚、西オーストラリア州でカジノ外にゲーム機械設置が認められなかったのは、地域社会における文化的意識や賭博に対する宗教観・認識の差異と言われている。
これらカジノ外に設置されたゲーム機械に関しては、各州・国とも別途「ゲーム機械法」等個別の法を制定し、カジノに設置されたゲーム機械とは異なった制度、許諾、規制、監視、税制の仕組みが適用されてきた。歴史的経緯に基づきこうなったのだが、2000年以降各州いずれもが、規制機関を同一にし、同一主体がカジノとカジノ外のゲーム機械を包括して規制することを考慮したり、制度の在り方を見直したりして、効果的な制度と行政システムを模索する方向性に変化していった。尚、ゲーム機械を誰が所有して、如何に運営し、かつこれを監視するかに関しては州毎に微妙な差異が存在し、同一ではない。これは設置機械に対する不正を如何に管理するかという発想の差異でもあり、これに伴い規制の在り方も州毎に微妙に異なることになる。カジノはその射幸性より、カジノ単独で詳細な規制や監視の枠組みが法定されているが、1990年代以降カジノ外のクラブ・ホテル・パブ等に設置された電子式機械ゲームは、規制や監視のあり方は必ずしも精緻ではなかったのが過去の実体である。カジノは明確な規制と監視の体制が単独に制度として設けられた。一方、カジノ外では必ずしも精緻な規制や監視の枠組みができていたわけではなかった。小さな施設を含め設置場所が広範囲、かつかなりの数に亘るという理由によるが、これらが制度的かつ組織的に整備され始めたのは2000年代以降から最近にかけての事象になる。特にカジノ外のゲーム機械の設置数がカジノにおける設置数を大幅に上回るオーストラリアの各州政府、ニュージーランドいずれもが、州全体、国全体の設置機械を対象に、IT技術を駆使して、全設置機械のリアル・タイム、オンラインによる監視・管理へと向かいつつある。かつ、この監視システム構築と施設整備・運営・監視・税額計算と請求書送付までを一括して民間事業者にコンセッションとして委託する仕組みが主流になっている(ニュー・サウス・ウエルス州、ビクトリア州)。公民連携により、効果的にIT技術を利用し、規制と監視を実践する仕組みを構築したことになる。