オーストラリアでは様々な賭博種が認められ、賭博行為が実践されているが、カジノは賭博総売上額でのシェアは約12%とさほど高いものではない(Ernst & Young Market Overview 2012年) 。国土が広く、カジノ施設は主要都市や観光地のみに限定的に設置される施設となり、供給自体が限定されているという事情もある。最大の賭博種要素はポーキーと呼ばれる電子式ゲーム機械(スロットマシーン)で全賭博売り上げの何と70%を占める。同じゲーム機械がカジノ施設内にもあるが、カジノ内にある電子式機械ゲームは設置数からいえば全体の6%程度でしかない。
2009~2010年の業界団体であるオーストラリア・カジノ協会(Australian Casino Association)が公表した統計によると、国内に13施設あるカジノ施設は約2万人を超す雇用を保持する産業となっており、その(カジノ外の事業者収益を含む)総収益は44億A㌦に達する。2008~2009年は景気後退に伴い収益は落ち込んだが2009~2010年は回復基調にある。これら企業の総収益中の78%がカジノ収益になり、飲食関連が13%、宿泊が9%となっている。尚、このカジノ収益は、電子式ゲーム機械の収益が全体の40%、テーブル・ゲーム収益が38%で、支援税制がとられ別枠で集計される国際的VIP顧客収入は全体の21%である。また同年度に支払った税金は11.6億A㌦になり、その内訳はゲーム課税が56.9%、企業所得税が20.4%、消費税(GST)が9.7%となる。尚、この税収の規模は、政府総税収の約30%に相当する。顧客総数からいうと、2009~2010年レベルでは4,773万人で前年よりも若干増え、景気低迷に伴う顧客総数減少から相対的に安定的な数値を取り戻しつつあるのが現状といえる。
このように、オーストラリアにおけるカジノ市場は、全体賭博市場の一部分にしかすぎないが、市場としての特色は下記にある。
① 市場の相対的安定性:
リーマン・ショックに伴う世界的な景気後退時期を除き、過去10年間のカジノ施設の収益、顧客総数は年平均1%の成長を示し、安定的な推移を示していることが特徴になる。顧客の重要部は国内からの観光旅客・地域住民でもあり、顧客数、収益もこれに比例しており、安定的な数値を示している。直近の収益増はテーブルではなく(射幸性の高いゲーム機械となる)プログレッシブ・スロット・マシーンの収益増によるところがと大きく、この人気に支えられている側面がある。
② 今後競争環境は激化:
一方カジノを巡る競争環境は激化しており、アジア(マカオ、シンガポール等)に競合国が出現したことにより、北東アジアや東南アジアから豪州に来訪してきたVIP顧客の取り合いの状況が生じている(但し、税率が低いため、エージェントとなるジャンケットに対するコミッション率や顧客に対するリベート率を他国に比し、相対的に高く設定できる利点があり、これがVIP顧客を惹きつける要因になっている)。また、簡易なアクセスが可能になる諸外国から提供されるインターネットカジノとの競争も生じている。統計的にはプレミアム顧客と呼ばれる国内外VIP顧客が収益に占める割合は毎年17~21%強レベルを保持しており、収益的には重要な要素を占める。利便性の良さという意味では、カジノ施設は国内市場に拡散している電子式ゲーム機械に顧客を取られている。また、おそらく時間の問題でインターネットを通じた賭博行為が認められるようになる場合、より利便性の高いインターネット賭博に更に一部顧客を奪われる可能性も高い。
③ 立地や他の観光属性がもたらす優位性:
もともとオーストラリアのカジノ施設は、滞在型リゾート、会議等をも含む統合型リゾートとして創設され、かつ一定地域における地域独占性や交通の便の良い大都会に立地しているなどの利点もあり、一定の競争上の優位性を保持している。かつ、立地地点は、あくまでも海外からの観光客をも引き付けることのできる様々な観光資源を保持しているところが多い。カジノは、これら既存の観光資源にプラスアルファの消費要素を与える複合的な観光施設としての役割を担っている。
④ 分類化される施設:
13のカジノ施設は売上規模からいえば実質的には3分類され、比較的小さな州や領土にある小規模施設(タスマニア、ケアンズ、キャンベラ ~収益規模は各A$50M)、中規模施設(アデレード、ゴールド・コースト、パース、ブリスベーン~収益規模は各A$100Mから A$350M)、人口集積地にある二つの大規模施設(メルボルン、シドニー~収益規模はA$630M以上)に分かれる。市場の特性に合わせた、投資規模・施設内容になっていることになる。またこれら施設は過半が巨大企業数社による寡占状況にある。