ニュージーランドでは、2003年前までは、カジノは独立した国の規制機関である「カジノ管理機構」(CCA Casino Control Authority)が全てのカジノに関する規制を集中的に担ってきた。またカジノ外の賭博行為に関しては、別の主務官庁の下に、賭博種毎に類似的な規制機関や委員会が存在し、バラバラにこれら賭博法制を規制し、管理してきたというのが現実でもあった。2000年以降、ニュージーランド政府はこれら複数の賭博法制の簡素化、合理化を企図し、様々な議論を経て、2003年「賭博法」(Gambling Act)を成立させ、従来バラバラであった賭博関連法を統合し、単一の法律として再構成した。この結果、2004年に、上述したカジノ管理機構も廃止された。
この「賭博法」に基づき、これまで複数の省庁や機関による規制の対象であったカジノ、カジノ外に設置されたゲーム機械、ロッテリー、競馬等スポーツ・ベッテイング等の賭博関連法が制度として一体化されるという他国には無い、斬新的な制度手法構築が試みられた。賭博関連法は一括して内務大臣の所管となり、この大臣傘下に新たに統一的な規制機関としての「ギャンブリング委員会」(Gambling Commission)が設置された。委員会の所掌は、賭博行為の認可・許諾であり、別途内務省にゲーミング規制局が行政組織として新たに設置され、これが、規制・監視・検査・違法行為摘発等の実務を担うという役割分担となった。委員会は最終的な許諾の判断権限を保持する規制主体となるが、実務としての規則詳細制定、監視・検査・法の執行・違法行為の摘発等は、公安当局でもある内務省が一元化してこれを行うという考えになる。ややこしいのは、ギャンブリング委員会は実質的に内務省に規制の実務をほぼ委ねると共に、賭博種毎に異なった規制手法が実施されていることにある。即ち、この賭博法の統合化に伴い、全ての賭博行為はその内在するリスクの多寡により分類された。比較的影響度やリスクが軽微となるクラス1~4までの賭博種(クラス1~2は、リスクの少ない小額の賭博行為で免許は不要だが、これを担う主体や収益の社会還元は厳密に規定する。クラス3~4は、リスクの高い高額の賭け行為となり、パリ・ミュチュエル賭博やカジノ外に設置されるゲーム機械はこの分類になる)の免許、規制、監視は内務省ゲーミング規制局が一元的に担うことになった。一番リスクが高いとされるカジノは、これらクラス分けの枠外として、特例的に、ギャンブリング委員会が直接免許を付与する判断に関与するという形に再構成されている。また、カジノ施設自身は、施設数が限定されているという事情もあり、内務省・ゲーミング規制局の地方部局である地域査察局・査察官により24時間常駐・監視の対象となった。
この構図は、制度的にはギャンブリング委員会の業務は包括的となるが、その権限の過半を内務省に委ねることになり、限りなく内務省に権限と業務を一元化する考え方に近い。組織としては委員会、内務省と二つあるが、限りなく、組織と権限を内務省に集約した管理の体系になる。ギャンブリング委員会の主たる所掌は、カジノライセンスやカジノ運営に関する免許の条件を判断することや免許を付与し、その更新、停止、剥奪に関する判断を下すこと等と共に、カジノ及びカジノ外の賭博行為に関連し、内務省に対し提訴される訴訟の裁定、大臣への意見具申等になる。この様に委員会の機能は、カジノに関連する免許付与と、カジノ外の賭博行為をも含む係争行為等に関する裁定に限定され、ゲームに関する監視・検査・査察は、内務省の一部局が専権としてこれを担う考え方になる。一方内務省は、賭博政策に関し、大臣及び委員会への意見を具申すると共に、クラス3~4の賭博行為を許諾する権限(内務省にとり新たな権限になる)、全ての賭博種に関するゲームの規則、機材の技術標準を設定する権限(従来カジノ管理機構が担っていた機能の一部を内務省が取りこむことを意味する)、賭博行為全般の法遵守と統一的監視並びに公衆に対する教育と情報提供等になり、従前に比して、大きな権限と所掌を保持することになった(なお、ニュージーランドでは、新たなカジノ施設の設置は考慮されていないため、カジノ関連業務はそもそも限定される所掌でしかない)。
賭博法制度の伝統的な考え方は、税収等の政策目的が優先されたため、異なった賭博種毎にバラバラの制度を設けることが先進諸外国の通例でもあった。ニュージーランドの在り方は、この伝統的なあり方を根本から変えるという意味で新しい法制度概念になり、これら異なる賭博法制度を一定の判断基準の下に制度として統合化し、管理や監視に整合性や一貫性を持たせようとする新しい試みであると言える。その後のオーストラリア各州や2005年の英国の制度も類似的な統合賭博法の考えを志向している。