韓国では、観光振興法の枠組みに依拠した外国人専用カジノの他に、別の制度的枠組みにより、内国民たる韓国人による利用が可能となるカジノ施設が一箇所のみ存在する。根拠となる法律は、1995年に制定された「廃坑地域開発支援特別措置法」であり、国によるエネルギー政策の転換とこれに伴う石炭産業の斜陽化により興廃した廃坑地域の経済を蘇生・復興させることを目的とした特別措置法となる。この法律は、この法に基づく開発促進地域中、大統領が定める特別な開発が必要となる地区として、「廃坑地域振興地区」を定義し、特例措置として様々な一般法の規定をオーバーライトし、かつ又国や地方政府による様々な支援措置を設けることにより代替産業の育成と地域経済の復興を図ることを規定している。この中に、カジノに関する規定が盛り込まれた。
同法第11条は観光振興法適用の特例規定になり、「文化観光部長官は、廃坑地域中特に劣悪な地域であって、大統領令で定める1ヶ所に限り、観光振興法第20条に記載された施設許可要件に拘わらず、カジノ業の設立を許可できる」とある。また同法第11条3項は「第1項の規定により許可を受けたカジノ事業者に対しは、観光振興法第27条第1項第4号の規定を適用しない」とあるが、観光振興法の当該条項は施行者の義務としての内国人の利用を認めさせない旨の規定でもあり、これにより内国人も利用可能となるカジノ運営を法的に認めたことになる。地域蘇生・活性化への政治的・社会的圧力が極めて高く、単純な財政支援ではないより効果的な手法として過疎地のリゾート化、これを支えるカジノの許諾を考慮したわけである。勿論単純な形での財政支援ができにくい、厳しい国の財政状況があったという背景もある。この法に基づき、江原道の山の奥地にできたカジノリゾート施設が、カンウオンランド・カジノ(江原道カジノ、通称High 1 Resort)である。尚、本来の政策目的が疲弊地区の救済であるがために、様々な雇用と経済活動を生み出す総合・複合型レジャー施設となることを前提として、スキー場やゴルフ場、テーマ・パーク、コンドミニアム等を含んだ複合的な観光施設として構成された。また、廃坑地域の蘇生である以上、立地場所は廃坑地域に限定されており、他の地域において内国人に入場を開放するカジノの設立を許可する考えは、当面ないことを韓国政府当局(文化体育観光部)は表明している(制度上は、カンウオンランド・カジノは2015年まで内国人利用可能カジノ施設としての国内独占権を保持している)。
この法律の主務官庁は産業資源部(その後知識・経済部に変更)と文化体育観光部との共管となり、知識経済部は地域経済振興という観点から、また文化体育観光部はカジノ施行という観点から関与する。実際の施行主体は法律上の規定により、国の機関、道、市などの地方政府が51.01%共同出資した第三セクターで、48.99%は株式公募により、一般の企業、個人等の投資家が出資した(現状の株主構成は産業資源部系の公社である韓国鉱山開発会社MIREKOが36%、江原開発公社が6.34%。4つの地方政府が8.5%、外国人投資家32.19%、国内機関投資家6.45%、国内個人投資家5.11%、その他5.24%となる)。カンウオンランド・カジノは2000年10月に一部が開業、2003年に全面開業に至っており、開業後1年目で既に年間入場者数100万人、年間総粗収益4,700億ウオンに達し、入場者数、総粗収益いずれも、他の外国人カジノ16施設の総計より遥かに上回る活況を呈した。2010年レベルでは、総粗収益は1兆3,140億ウオン、純利益4,220億ウオン規模にまで達している。尚、外国人専用カジノの場合には、観光振興開発基金に対し、総粗収益の10%を納付する仕組みであったが、内国人が利用可能なカジノの場合には、この観光振興開発基金10%納付金に加え、江原道の条例により創設された特殊法人となる「廃坑地域開発基金」に対し、EBITDAの20%に相当する納付金(2005年までは10%であったが2006年以降20%となった)を納めることが義務づけられている。後者の開発基金の使途は、振興地域開発と関連した分野における①代替産業育成の為の支援、②道路等基盤整備事業、③教育・文化及び芸術の振興事業、④環境改善・保健衛生及び厚生福祉事業に限定されている。尚、2012年より、総粗収益の4%に対し、特別消費税が賦課されることになった。
この様に韓国の制度は一国二制度的な仕組みになり、顧客層が異なる二つの制度、二つの施設類型が並存する特殊な形態であるともいえる。外国人専用カジノでは過去数十年の経験があるが、制度的には外国人専用カジノから始まった為に、全体の規制の仕組みや制度は緻密ではなく、かつ整合性のある制度や規制が施行されているとはいい難い。この意味では、制度的には極めていびつなまま、現実が先行し、制度の在り方や規制・社会的問題は後回しにしたというのが実態でもあり、今日においてもかかる諸問題を引きずりながら施行がなされている(一部幹部の贈収賄や、一部従業員が外部第三者とつるんだいかさまを実施するなど、企業としての規律や清廉潔癖性は完璧とは言い難い側面もある)。
尚、既存の外国人専用カジノも内国人が入場するようにすべきとか、新たに首都ソウル近辺に内国人が参加可能な統合型リゾート・カジノを設置すべきという政治運動や主張が、韓国観光公社や一部外国人投資家グループ等に存在する。但し、独占権が付与されている既存の制度や他の外国人専用カジノ等の複雑な利害関係を全く無視して、単純に新たな内国人利用可能カジノが設置できるとは想定できにくい。まず明確な政策なり方針があり、これに基づき法を大幅に改正しない限り、実現は難しいが、この点、韓国政府の意図は必ずしも定かではない。