マカオは中華人民共和国の特別行政区であるが、観光とゲーミング賭博が唯一の産業でもあり、カジノ関連税収が、特別行政区の過半の歳入のベースになるという特殊事情にある。税収は原則特別行政区内に留まり、中国本土の中央政府が資金を吸い上げているということはない。また、周辺国との競争環境が存在しないために、税率は一般的に他国に比較しかなり高い。これらゲーミング賭博施行に関しては、下記税が賦課されている。尚、これ以外に、企業経費控除後のゲーミングが生み出す企業所得に対し、別途企業所得税を課すということはマカオではない(勿論ゲーミング外の同じ企業の収益活動、例えば宿泊、飲食、物品販売等に関する所得に対しては企業所得税12%が課税される)。
① カジノ特別税:
カジノの実質売上となる総粗収益(GGR)に対する固定率課税で、税率35%で課税される。 年賦課額の1/12を各月マカオ特別行政府に前納する(根拠法律2001年法律16号。法律に規定されているとともに、コンセッション契約にも規定されている)。その歳入は全て一般財源として特別行政区政府国庫に入る。
② 1.6%特別賦課税:
特別行政府が指定する特定の公共財団に対し毎年支払うもので、粗収益の1.6%が課される。その使途は文化、社会、経済、科学、慈善目的に指定されている一種の特別目的税となる。根拠はコンセッション契約である。
③ 1.4%特別賦課税:
特別行政府に対し毎年支払う賦課税で、粗収益に対し1.4%となる。上記と同様に一種の特別目的税で、使途は都市開発・建設、観光振興、社会保障などに限定されている。根拠はコンセッション契約である。法律上は最大3%と定義されているが、実態はSJM社の場合は従来からの貢献要素があるため、交渉により1.4%と低率になり、その他の事業者は2.4%と契約上差別的な対応がなされている。
④ 年度特別賦課金:
固定費部分と変動費部分に分かれ、固定費部分は毎年3000万パタカス(MOP)で、マカオ特別行政府の平均物価指数に応じて毎年調整する。変動費部分は各事業者が保持するゲーミング・テーブル並びにスロット・マシーンの数に応じて年毎に課税する固定税となる。この場合、下記ルールを採用する。
*特定されたゲーミング・ホールのゲーミング・テーブル:1台につき30万パタカ
*特定されていないゲーミング・ホールのゲーミング・テーブル:1台につき13万パタカ
*電子式ゲーム機械:1台につき1000パタカ
尚、上記課税行為と共に、①コンセッション取得主体毎に、コンセッション契約において、コンセッションの条件として、マカオにおける投資のコミットメントを契約上の義務として課していること、②土地は特別行政区政府からの賃貸となるため、別途土地コンセッション契約に基づき、土地賃料一時金支払や毎年の賃料支払義務があること、③所謂特別賦課税とは一種の公共工事や公共目的のための政策的予算配分的な課税行為に近いが、歴史的な事情に基づき特例的にコンセッション契約上の一つの義務となっていることなどが、特徴的な背景になる。もちろんこれ以外に、企業、個人等の許認可の申請、認可に際しては、一定の申請料金及び認可料金が賦課される。
カジノ税は、上記の通りカジノ粗収益に対し、特別税35%+特別賦課税(1.6%+1.4%)=38%となるのだが、理論的に戻るべきはずの一部税が戻らない為,実効税率は39%になるといわれている。但し、注意すべきは、このマカオのカジノ事業に関する限り、企業所得税は存在せず、課税されない。上記マカオにおけるカジノ課税に関する特徴は、このように;
① 競争市場が近隣に存在しない為、他地域に比し、相対的に税率を高く設定できることになり、現実にアジア市場ではもっとも高い税率になること、
② 本土中国人VIP顧客の場合には、ゲーミング・プロモーターが貸付金の回収リスクを取り、リスクと責任を分担し、実質的に運営に参加するが、そのコミッションも極めて高い。カジノ事業者が資金回収リスクをゲーミング・プロモーターに転嫁しているわけで、総売り上げは上がるが、極めて費用が高くつくオペレーションになっていること、
③ この結果、カジノ事業者自体は実質的には薄い利幅しかとれないこと、
という現実をもたらしている。カジノ事業者自体もカジノ・ホストと呼ばれる米国式のマーケテイング・対顧客サービスを担う担当を保持しているが、取扱い額としては限られ、中国本土VIP顧客の過半はゲーミング・プロモーターに依存している)。
この実態は、総粗収益の約40%が税、また40%がゲーミング・プロモーターの取り分となり、残りの20%がカジノ事業者(ハウス)の取り分となるに等しい。カジノ事業者にとっては、ここから減価償却、費用を控除し、利益を捻出するというのはかなりしんどいことになってしまう。但し、巨額の総粗収益の成長と総収益の大きさが問題をカバーしているに過ぎない。