中華人民共和国では、革命後あらゆる賭博行為を憲法上の規定、並びに刑法第168条に基づき全面的に禁止している。この状況は毛沢東の死後も10年以上続いたが、1984年、北京国際マラソン大会の主催者が当該イベントの資金を捻出するためにロッテリー(宝くじ)を実施することが特例的に認められ、これにより制度上のタブーが壊れることになった。その後も類似的な公式行事等の資金捻出のためにロッテリーが用いられ、1986年に民生部が国務院に対し、慈善福祉目的のためのロッテリーを実施することを申請、これが許可され、1987年6月に同部に実施の為の国の組織が設けられ(「中国福祉ロッテリーセンター」China Welfare Lottery Issuing Center CWLC)、同年7月にHebei州において最初のロッテリーが実施された。その後10ケ月以内に10の州がロッテリーを実施するに到り、急速に中国全土に広まったという経緯になる。歴史的に賭博行為が好きな国民性もあり、かつその収益使途が公益にあるために、受け入れられたのであろう。この結果、ロッテリーは、中国においては賭博行為として認知、実施され、現在に至っている。福祉ロッテリーは、老人、身体障害者、困窮者等の財政支援の原資となり、2011年の年間総売り上げは1,278億元に達する(内訳は、ロトが71%で907.4億元、スクラッチ・カードが15.68%で200.4億元、VLTが13.32%で170.2億元となる)。
これとは別に、スポーツのイベントや各地運動施設の整備などの財源確保に関する潜在的需要も大きく、やはり、ロッテリーが新たな財源として着目されることになった。1989年第11回アジア大会の必要資金を捻出するためにロッテリーが試みられたことが契機となり、スポーツ・ロッテリーが制度化されることになった。この結果、1994年に文化部傘下に国の機関としての「中国スポーツロッテリーセンター China Sports Lottery Administration Center(SLAC)」が設置され、組織的にスポーツ・ロッテリーが開始された。これはその後、各地のスポーツ施設建設の原資を提供することになり、2011年の年間総売り上げは937.8億元に達する(内訳は、ロトが55.47%で520.2億元、インスタント・スクラッチが21.28%で199.6億元 シングル・マッチ・ゲームが23.25%で218億元となる)。
これら中央政府が監督する二つの国によるロッテリーは独立して存在し、お互いが市場において競合している。またロッテリーに伴う収益は国、地方政府間で配分され、地域社会におけるスポーツ施設や社会福祉プログラムの重要な財源となっている。
1987年から1997年頃までは、売上は安定的であったが、急激な成長は1998年以降、関連する政府当局が積極的な賭博振興施策をとってからである。一方、賭博行為が社会に浸透するに伴い、ロッテリーに絡んだ偽造や汚職等の違法行為が蔓延し、これらが摘発され、社会的問題を引き起こすことになった。この反動として、規制強化や厳格な摘発が実施されることになり、結果2002年から2004年までは売上や成長が低迷し、大きく落ち込んだ(汚職の原因となった偽造行為などから国民の信認を喪失したことが人気低迷に結びついたことになる)。2005年、新たな成長施策としての新製品の市場への投入や様々な需要喚起施策などが再度とられることにより、前年比売上90%増と、一挙に成長軌道を取り戻し、回復するに至っている(平均すると年成長率は25%強、一人頭の販売額にするとまだ他国よりかなり低く、それだけ将来的な成長余力があると考えられている)。
制度的には、これらロッテリーの施行の制度的根拠と施行の規則は、2002年国務院・財政部による「ロッテリー・チケット販売、配布、管理に関する仮規則」に基づいていたが、もとより詳細な規定とはいえなかった。人気が高まると共に、偽造・いかさまや不法行為・違法行為が後を絶たない状況もあり、2009年に至り初めて、「ロッテリー販売に関する行政規則」(Regulations on the Administration of Lotteries)が制定され,その後「同実施細則」(Implementing rules for the Regulations of the Administration of Lotteries)が制定されるに至っている。これにより、対未成年者への販売禁止、顧客に対する与信付与やデビット・カード支払いの禁止、技術的標準の策定、ロッテリーくじ販売許可手続き詳細規定、ロッテリー販売事業者の財務監査等が規定され、実施されるようになった。
この様に、中国では、ロッテリーくじは、歴史的事情に基づき、認められた賭博行為になる。技術的にはその他の賭博行為は制度的にできないことになっているのだが、現実には闇賭博の類は存在し、認知されたロッテリー市場の10~20倍の闇市場があるという情報もある。後述するVLTやマカオ特別地域でのあらゆる賭博行為の許諾は、単純な形でこの市場を判断すべきではないことを示唆している。中国人は伝統的に遊びとしての賭博にのめりこむ習性を持ち、そのゲーミング性向はアジアの中でも極めて高い。単純な禁止ではなく、一定の領域に閉じ込めつつ、抑制しつつ認めるという政策なのであろう。現状の儘の曖昧な制度が将来ともに存続するとも思えないが、国内での規律を保持するという意味からも、全面的に賭博行為を解禁するということもまずありえそうもない。今後如何なる政策的選択肢が取られるかは、中国にとり、大きな課題であるともいえる。