インターネット賭博の分野で事業者が顧客の国籍や居住地域を検証せざるを得なくなったのは一部の国や地域では、インターネット賭博が禁止されているため、かかる国や地域の顧客を自動的に排除する仕組みをシステムとして組み入れざるを得なかったという事情があったからである(当該国で法の執行を厳格に行ったり、決済システムをブロックされたりした場合、実際にビジネスはできにくくなると共に、顧客からの預託金も処理できなくなるため、予め顧客を排除せざるを得なかった)。一方、米国では2012~2013年に至り、一部州で限定的に特定分野のインターネット賭博を認める動きがあり、これが自州の州民のみを対象とし、他州の顧客が参加することを禁止する(サイバー世界に一種のバーチャルな境界を意図的に設ける考え方になる。これをGeofencingという)と共に、事業者に対しても、他州の顧客を特定化し(インターネットに接続された機械がどの地点にあるかを特定化することを意味する。これをGeolocationという)、排除することを義務づける考え方をとった。規制のベースが州単位となるために、現状の枠組みではこうならざるを得なかったということになる。もし別々の州が各々自州の州民にインターネット賭博を認めている場合には、州際間協定を締結することにより、事業者にとっても顧客にとっても両州の間では上記バリアーは無くなる。
これら米国州における制度は、顧客がシステムにログインし、金銭を預託し、引出し、賭け事を行うたび毎に顧客の地点(Location)を検証する義務を事業者に課している。かかる事情により、顧客がどこに所在しているか(顧客の端末は何処にあるか)の情報を正確に把握する必要性が生まれ、この重要性が注目を浴びている。従前これは単純に顧客のIPアドレスをチェックすることでなされてきたが、IPアドレスを隠すソフトウエアが一般に供される時代がきており、かかるソフトウエアを用いた場合、技術的な知識が無くとも、顧客の地点をごまかすことができるからである(わが国でもこのソフトを使い、犯罪が行われる事例が生じてきている)。
顧客の地点を特定化する手法には、複数の手法があり、各々にメリットとデメリットがあり、かつ一部に関しては、顧客側にこれをごまかす手法もありうることが知られている。例えば、基本的には動かせないパソコンとモバイル端末となるタブレットや携帯では基本的な対応も変えざるを得なくなる。技術の発展は今後とも、この問題を解決する手段を与えると想定されているが、現状は複数の手法を併用することで、顧客地点を効果的に特定化できるとされている。このための複数の手段は下記になる。
① IPアドレス検証:
顧客のIPアドレス(インターネット・プロトコール)から顧客の地点を割り出す手法で、通常はIPアドレスが割り当てられているブロックの地点情報を集めたデーター・ベースと比較する手法になる。正確さは欠けるが、瞬時にチェックできる。もっとも顧客がIPアドレスを隠すソフトウエアを利用した場合には、これだけでは地点検証はできなくなってしまう。他の手法と併用して精度を上げる必要性がある。
② WiFiアクセスポイント検証:
Wifiのアクセスポイントとデータ・ベースとして蓄積された地図上に構成されるWiFiネットワーク情報とを比較し、顧客の地点を割り出す手法である。
③ GPS地点検証:
タブレットやスマートフォンではGPS受信機が標準装備されており、モバイルを対象とする場合、GPSで地点を割り出すことが可能になる。勿論これをごまかせるソフトウエアも存在し、完璧なツールではない。
④ 携帯電話ポジション検証:
携帯中継ベースが緻密に設置してある都市部等では複数の技術を併用することで、使用している携帯電話の位置をある程度捕捉できる。ここから利用者の地点を把握する手法になるが、場所次第では物理的に機能しないこともあるという。
技術の世界に完璧は無いし、単一手法で確実に顧客が存在する場所・地点を特定化できる手法もまだ無い。一方複数の手段を併用することを前提に、予め地点検証のためのプログラムを組み込むことにより、通常の手法による顧客によるアクセスはその地点を概略把握できることは可能になっている。勿論悪意をもってすれば、上記各々のシステムをごまかす手法も存在する。地点を割り出す技術の進歩とこれを誤魔化す技術の進歩がいたちごっこで進んでいるのが現実になる。