インターネット賭博も賭博行為である以上、一国の国民を保護するためにはこれを厳格な規制の対象とし、禁止すべしとする政策をとる国がある。あるいは、あくまでも管理された環境の中で施行されるならば認めるべきとし、規制して、これを認可する政策をとる国もある。一方、インターネットは市場のグローバル化を支援するツールでもあり、自国のゲーミング産業がもたらすサービスを他国に「輸出」する好機と捉える考え方の国もある。かかる考え方の差異が、インターネット賭博に関する制度の差異にも現れる。
基本的には下記三つの制度的アプローチ類型が存在する(勿論制度は常に固定的であるわけがなく、時間の経過に伴い、これらは変わりうること、現実に変わりつつあることに留意することが必要である)。
① 類型I:国民が遊ぶことも、事業者が業として提供することも禁止(例:米国等):
1990年代から2000年代にかけて、ネット・カジノの最大の市場は米国でもあった。一方、米国連邦政府はインターネットによる賭博は電子通信手段による賭博行為を禁止した1961年「有線法」(Wire Act)により禁止されているという制度的スタンスを保持し続けてきた。これは州際間における電話を通じた競馬等のスポーツ・ベッテイングの投票券販売を禁止する連邦法で、ネットも有線と同様と解釈しているのだが、無理があることは歪めない。制度的には、極めてグレーと判断すべきで、この結果ネット賭博の是非に関して様々な訴訟が提起された。一方、ネット賭博自体を禁止しようとする法案も何度となく連邦議会に提出され、2006年ブッシュ政権の時代に「違法インターネット・ゲ-ミング賭博執行法」(UIGEA)が制定された。この法は有線法を拡大して、ネット賭博を規制するというよりも、賭博の賭け金決済に係わる金融機関に決済を禁止させる義務を課すことにより、実質的にネット賭博ができない仕組みを作るという法律となった。果たして効果的な規制といえるのかは当初から懸念があったが、米国はネット賭博を明確に禁止し、かつ法の執行を厳格に実行するという立場であることには変わりはない(尚、2011年12月の連邦司法省の開示見解に基づき、有線法の規定をオンライン賭博を禁止する理由とすることはできなくなったが、司法省は、ネット賭博は違法とのスタンスを変えているわけではない。もっとも州政府レベルでは連邦法上違法の根拠が無いとして、独自に州法で一部ネット賭博を認める動きが顕在化し、米国における現実は混沌とした状態にある)。
② 類型II:国民が遊ぶことは自由、一方事業者が業として国内でサービスを提供することは禁止、対外的には可能(例:オーストラリア):
2001年連邦「イントラアクテイブ・ゲーミング法」に基づき、オーストラリアでは、ゲームの提供者たる運営事業者を規制するが、顧客や国民を規制しない。即ち、同法によりオーストラリアに居住する国民にネット賭博を提供することは事業者にとっての犯罪となるが、国民がオンライン賭博に参加すること自体は犯罪としていない。また同事業者が外国に対してサービスを提供することは違法ではない。一方オンラインによるスポーツ・ベッテイングは、上記とは関係なく、賭け事がスポーツ・イベントの前になされる限り合法という事情にある(同時的、イントラアクテイブではないという解釈による)。この結果、オーストラリアでは、6つの州に現状14のライセンスを得たインターネット賭博事業者が存在する。制度の目的は自国民に対するオンライン賭博の提供を抑止するが、対外的には認めるというものでもあった。但し、事業者による行為を犯罪としたところで、完璧な法の執行が行われるとも想定されず、かつ現実には国民はオンライン賭博にアクセスしているという中途半端な制度上の仕組みになってしまっている。
③ 類型III:国単位で独自に規制の対象とし、一国の領域内においてのみ認める、あるいは広くサイバー世界を対象に認める(例:欧州諸国):
欧州諸国では、賭博行為、インターネット賭博は当然規制の対象ではあるが、国により、これを積極的に認めて、規制の対象とする国、禁止している国、あるいは特定の主体、特定の分野についてのみ認めたりする国等があり、国毎にとっている政策が異なるというのが現実になる。EU内では、英国、マルタ、ジブラルタル、フランス等が先行的にサーバーを自国に設置する事業者にライセンスを付与することで、インターネットによる特定の賭博種を規制の対象とし、ライセンスを付与することで認めている。現代欧州の様々な国々は、ロッテリーや、スポーツ・ブッキング、インターネット・ポーカーに関しては、段階的にインターネットを利用したサービス提供の導入を認めつつある。但し、自国の国民を保護する目的で(他国からの参入は認めるにしても)許諾制とし、国単位で規制を設けるという考え方を取る国が多い。この場合、規制として国内顧客のみを対象とする場合と、規制するが、その活動は国内のみならず自由とする場合(英国、マルタ)がある。
上記の他に、我が国のように、原則は禁止で、類型Iなのだが、現実に市場には存在し、自国民がネット上での賭博に参加しているにも拘わらず、法の執行は一切なされず、特段の摘発もなく、規制や禁止措置も無かったり、有効な措置をとっていなかったりする国も多い。賭博行為自体が制限的である国の場合であっても、国民は自由にネット賭博にアクセスできるわけで、制度と現実が大きくかい離する事象が生じていることになる。