さて、UIGEA(「違法インターネット賭博執行法」)制定後ほぼ7年が経過したが、現状の米国はどうなっているのであろうか。米国民のインターネット賭博志向、特にインターネット・ポーカーに対する志向はかなり根強く、UIGEA法制定に拘わらず、米国人によるインターネット賭博参加者は増えてこそすれ、減っていなさそうである。法制定後は、一端市場は縮小したが、何のことは無い、元に戻りつつある。制度の枠組み自体に一貫性と整合性が無く、法の執行も完璧にはできないために、国民の自由な行動を規制できない状態が生まれてしまった。この意味では極めて不安定だが、米国内において、ネット賭博は隠れた市場を構成してしまっている。2003年から2010年の間に、約1,000万人以上の米国人がオンライン賭博に参加し、300億㌦を消費したという調査データもある(出所:H2 Gambling Capital, National Survey Report 2012)。
但し、2011年以降、大きな変化が生じつつある。2011年には連邦政府・司法省(刑事局)によりUIGEA法違反を根拠とした大きな摘発があった。一方、同年末には一部インターネット賭博を論理的に認めうる法的根拠を司法省・法制局が出す等混乱した状況にある。この概要は下記になる。
① 連邦政府・司法省、FBIは継続的に、かつ散発的にインターネット賭博行為を摘発し、関連する事業者幹部を逮捕するという形で法の執行を厳格に行ってきた。2011年4月15日、ニューヨーク大陪審は米国に在住していた(海外に拠点を持つ)インターネット・ポーカー大手事業者3社(Poker Star, Full-tilt Poker及びCereus~Absolut Poker/Ultimatebet~)の創設者・経営者を、UIGEA法違反、銀行詐欺、マネー・ロンダリング、違法賭博業法違反等の罪状により一斉逮捕・起訴し、サイトをブロックし、76の銀行口座を凍結、資産を差し押さえるという強硬手段に出た。これら企業は、インターネット・ポーカーは技量のゲームで賭博ではないとする解釈のもとに米国民を対象に堂々とビジネスを展開していたのだが、司法省はこの大手事業者を一挙に摘発したわけである。市場はこれに敏感に反応、短期間の間に縮小し(これら3社で世界のインターネット・ポーカー市場の6割を占めていたが、事件後は26~40%へと激減)、その他の事業者も米国市場からの撤退を表明したり、米国顧客との取引を凍結したりして、大きな混乱を招くことになった。
② 上記事件の経営者に対する民事訴訟は継続しているが、企業に対する刑事訴訟は2012年7月に連邦政府・司法省とこれら企業との間で和解が合意され、全ての米国資産の没収に関する合意、$731Mの和解金支払いが実現することになった(2013年3月、精算人が連邦政府により指名され、これらの一部は、預託金を拠出し、損害を被った顧客被害者に弁済されることになっている)。
③ これら大手企業は上記事件を契機として、実質的に米国から撤退することになったが、一方では、オフショアの規制が緩い国、あるいは規制が実質的に無い国々から、異なった無数の事業者が輩出するに至り、現状では米国民に対し、300以上の運営事業者により、1,000以上のウエッブ・サイトから賭博行為が提供されるようになっているという事実がある。これは、提供主体が変わっただけで、サイバー世界での実質的なサービスの提供は継続され、米国民がこの市場への参加を諦めたわけではないことを意味した。これでは、法の執行はうまくいっていないことになる。
④ 一方、2011年12月の連邦司法省の「有線法」適用解釈を契機とし、様々な米国の州において、顧客を州内に限るインターネット・ポーカーを認める制度を創出する動きが進みつつある。一部の州は既に制度的枠組みを創出する法案を州議会で可決し、(連邦政府が反論・提訴しないという前提だが)、インターネット・ポーカーを主催する民間事業者に対し、ライセンス付与を実施しつつある。ニュー・ジャージー州でも既存のライセンスを取得しているカジノ事業者を対象とし、自州の顧客のみを顧客とするネット賭博を認める法案が2013年3月に可決したが、何と一旦米国を撤退したはずのPoker Starの親会社(マン島のRational Group)は、売りにでていた同州アトランチック市のカジノ事業者(Atlantic Club Casino Hotel、従前のAtlantic City Hilton)を所有者たる投資企業のColony Capitalから買収する意向を同州カジノ管理委員会に届け出ており、ネット賭博事業者が陸上カジノを買収し、これをもとに米国でネット賭博へ再参入するという展開になりつつある。これに対し、陸上カジノ事業者の業界団体であるAGA(米国ゲーミング協会)は、上記買収申請を審査していたカジノ管理委員会に対し、Poker Starは過去の米国内の行動よりして廉潔性に欠け、買収を認めるべきではないとする反対の法廷陳述書を提出し、事態を混迷化させてしまった。陸上カジノ業界は一斉に反対の声を上げたのだが、審査は2013年8月までかかるとされ、買収が実現するか否か、既に暗雲が立ち込めている。かつ、買収交渉自体も暗礁に乗り上げたとする情報もあり、事は単純ではなくなってしまった。
かかる米国内の動きを制度も現実も「混乱の極み」と評する意見もあるのだが、時代が変わりつつある節目の混乱でもあるのだろう。