英国では、2005年賭博法に基づき、インターネットやデジタルTV、携帯電話など電子的なコミュニケーション手法により、遠隔地から提供され、かつこれに顧客が参加する賭博行為を遠隔賭博(インターネットを利用したオンライン賭博のことで、英国では、これをRemote Gamblingと呼称する)として定義し、これを制度として規制することにより、認知している。同法に基づき、リベラルかつオープンな形でインターネット賭博を規制することにより、その自由化を実現したことになる。これに基づき、一定の民間事業者がライセンス(許諾)を申請、取得し、同国に企業とサーバーを設置することにより、インターネット賭博を提供できるようになった。当然、その免許取得は厳格な精査の対象になるとともに、当該事業は、英国において課税対象となる。これは、国民、消費者が、委員会が定める最も高い基準に基づく、信頼おけるインターネット賭博サイトを自ら選択できるようになることを意味する。ライセンスを受けたサイトには、規制機関が付与する運営ライセンス番号が表示され、規制機関へのハイパー・リンクが張られることになり、サイトにアクセスした段階で、顧客は、正当なライセンス事業者か否かを判断できる。尚、英国では、未成年に対するインターネット賭博の提供は犯罪行為となり、未成年賭博を防止する厳格な手順が施行者に義務づけられている(年齢確認手順、フィルタリング・ソフトウエアの提供、これを可能とする世界最新の技術の採用などが施行者に義務付けられる)。
規制機関は、「英国賭博委員会」(Gambling Commission)となり、2005年賭博法に基づき設置された文化、メデイア・スポーツ省参加の、国の省庁の一部を構成しない独立した公的機関となり、英国における全ての賭博行為を規制する包括的規制機関となる(スプレッド・ベッテイングのみは過去の経緯より、別の組織体が管理規制を担い、賭博委員会の所掌とはなっていない。ロッテリーに関しては当初別の機関が存在したが、2012年に賭博委員会と合併し、同委員会の所掌となっている)。同委員会は、2007年より実質的な活動を開始し、インターネット事業者の申請、審査行為を開始し、事業者ライセンスを段階的に付与してきた。
関連事業者は英国にて賭博行為を提供する行為に対する「運営ライセンス」(Operating License)を取得する必要があり、委員会の定める遠隔賭博・ソフトウエア技術標準を遵守する必要がある。また、ライセンス事業者の一定の管理職の立場にある個人に対しても「個人ライセンス」(Personal License)が要求される。実際の運営に際しては、規則や委員会の定めるライセンス付与条件と慣行規則(Code Of Practice)を遵守することが要求される。
制度上は全般の賭博ライセンスの中の一つという位置づけになり、インターネットのみに関して特例的な規定を設けているというよりも、一般則の規定の中で一部がインターネット賭博に関連する形式をとっている。尚、インターネット賭博という狭い定義ではなく、デジタルTVや携帯電話をもコミュニケーションの媒体として含むために、賭博法ではこれを包括して、遠隔賭博(Remote Gambling)と呼称している。これが為、ライセンス付与に関する一般規定はその他の賭博種と同様に、インターネット賭博規制にも適用される。個別の分野における規定は、個別規定として一般規定の中に挿入されている。
法は委員会に対し、申請者による申請に基づき、適格性審査を実施すること、これに基づきライセンスを付与できる権限を付与し、大臣、委員会はライセンスに対し、かなりの追加的な義務を賦課することができる。サーバーを国内に設置すると共に、技術標準への準拠が求められ、システム全体が検査、監査の対象となり、かつライセンス申請料と年ライセンス料の支払いが義務付けられる。コストは軽課税国に比較するとかなり高くなるが、先進国である英国でライセンスを取得するという信頼感を市場や顧客に与えることができるというメリットはある。2009年時点で、英国事業者として、ライセンスを取得したネット賭博運営事業者は150社になった。このほか、一定の基準に達している諸外国のライセンス事業者を認知し、英国内において、宣伝活動を認め、英国人に賭博を提供することを認めた国をホワイト・リスト国(White Listed jurisdiction)といい、かかる国の事業者もホワイト・リスト企業として登録されている(ホワイト・リストとは日本では見慣れない言葉だが、ブラック・リストの反対概念と考えれば理解しやすい)。
マルタや英国等の先進国におけるインターネット賭博のリベラルな許諾と規制の動きやその実践の在り方は、制度としては精緻さと整合性があり、インターネット賭博市場を大きく発展させるベースとなったことは間違いない。かかる制度や慣行は米国には存在せず、オンライン賭博の規制と実践に関しては欧州諸国が米国を遥かに凌ぐという面白い兆候がでてきている。またこれに伴い、世界最大の認知されたオンライン市場を創設できたことも事実とはなるが、一方では、様々な課題も認知されるようになってきている。