モホーク・カナワケ部族はカナダのモントリオール近郊に位置した居留区に在住する原住民(インデイアン)部族で住民は8,000名程度になる。1996年この部族は、米国人専門家の支援を得て、自ら制度を創り、部族自身が、規制者、許諾者として、インターネット・カジノのライセンスを第三者に発行する仕組みにより、サイバー世界における規制者としてのビジネスモデルを作り上げた。サイバー世界において、自らが公正な第三者として、一般顧客に提供される賭博システムやメカニズムを認知し、その公正さを認証し、許諾するというビジネスを実施していることになる。単純でないのは、今や400以上のサイトがこの部族が管理するホスト・サーバーから発出されていることにある。2006年に米国にて違法インターネット賭博執行法(UIGEA)が成立したという事情により、その時点以降、カリブ海をベースにしてきたネット賭博事業者がこのカナダの部族のサーバーに移動するという結果が生じ、一時世界のオンラインギャンブル流通の約60%はこの部族のサーバーから出ているといわれていた。部族はライセンス許諾料や、このサーバーの維持管理費等により収益を得るという構図になり、売上や収益に課税しているわけではない。一種の固定費として当初のライセンス付与に2万5000カナダ㌦、年次更新料に1万カナダ㌦を徴収し、これが部族の主収益になる。この意味では運営者の側から見ると費用としては極めて安く、魅力的な環境を提供した。
部族によるライセンスは、より正確には、部族所有の企業であるもモホーク・インターネットテクノロジー(MIT) 社のみが保持している。このMIT社が、別途サイト運営事業者に「顧客・プロバイダー認証」と呼称する許諾を付与する。MIT社は一種のサーバー・ファームと呼ばれるビジネスを実施していることになり、これらサイト運営事業者から毎月賃料を取り、サーバーを利用させているわけである。但し、果たして、関連運営事業者の廉潔性を検証した不正が無い仕組みといえるのかに関しては大きな懸念がある。
カナダでは、米国の様に、先住民部族によるカジノ賭博に関する明示的な制度的枠組みは存在しない。これら部族は、部族が商業的賭博を自ら実施し、規制することは、カナダ連邦憲法第35条により認められた部族が持つ固有の権利であり、これにより連邦刑法は非適用になるという法律上の立場をとっている。制度的には極めて曖昧なままに、一部の部族が個別の州政府との合意に基づき、陸上設置型カジノを運営し始めてしまったことがカナダにおける部族カジノの背景である。陸上設置型部族カジノ施設の場合には、州政府に付与された権限の範囲内でカナダ在住の部族を一種の慈善団体とみなして、部族による申請を州政府が許諾するという形式により部族に特例的なカジノ許諾がなされた。但し、カナワケ族の場合には、陸上設置型ではなく、ネット上のライセンス付与をしているにすぎず、州政府の許諾なしに一方的にやっている事例になる。かつ、ネット事業者にライセンスを付与して、このライセンス枠の中で自らがサーバー・ファームとなり、彼らにネット賭博を営ませているわけで、連邦法・制度上もグレーな状況になり、法制度上の裏付けは無く、かなりややこしい事情が存在する。
尚、連邦政府は、1985年刑法改定により、州政府による電子媒体を用いた賭博行為を認めており、現状、インターネット賭博に関しては、その顧客が当該州の住民に限定される場合、連邦刑法の規定に基づき、認められるとする解釈をとってきた。これに基づきカナダの一部の州では、競馬やロッテリーなどの分野において、州政府が管理する州民のためのインターネット賭博が限定的に存在する。一方2008年5月29に連邦議会で可決された連邦刑法改定により、インターネットによる対外的な賭博行為は新たな規制の対象となり、制度的にはカナダ国内から他国の利用者に対し、サイバー賭博を提供することはできないことになっている。よって、明らかに、①事実が先行、制度がついていけない状況が生じていると共に、②連邦法上は違法とはいえ、先住民部族が固有な権利として主張した場合、法の執行ができにくいという状況にもある。かつ、③事実としてカナダの一角にあるネット・サーバーから世界に向けて賭博サービスが提供されているという奇妙な事象が継続している。カナワケ部族は英国政府に対し、ホワイト・リスト国申請をしたが、英国政府は同部族の遵法性に関するケベック州の見解を求めた所、同州政府は意見を保留し、この要請は実現しなかった。
一方カナダ各州は、上記制度改定に基づき、明らかに各州単位で部分的なインターネット賭博を特定賭博種に関して認めることを実施しているか、検討中の段階にある(ケベック州、アルバータ州、マニトバ州等)。ケベック州は州政府のエージェンシーであるLot-Quebec社に対し、2010年にインターネット賭博を認めた。大西洋に面した5つの州(ノバスコテイア、ニューブランズウイック、ニューファウンドランド、ラブラドール、プリンスエドワーズ)により構成されるAtlantic Lottery Corporationも一部賭博種に関しインターネットによる提供を始めている。
上記の如く、カナダではことインターネット賭博に関する限り、曖昧な制度が継承され、部族、州いずれもがバラバラで国としての整合性、一貫性のある制度があるわけではない。