高度成長期にあっては、地方公共団体にとり、公営賭博は「金の卵を産むガチョウ」とも言われ、地方財政に大きな財政的貢献をしたという事実がある。確かに余暇も楽しみも限定された時代にあっては、公営賭博は庶民の人気を呼び、好況・不況に拘わらず売り上げも年々増大していった。これに伴い控除金の絶対額も年々増えていき、これが結果的に収益(税収)を増やしていったという経緯がある。インフレに伴い、開催費用も当然増大していったが、売り上げの伸びがより大きい場合、問題にもされなかった。この意味では、公営賭博の経営行為自体は、経済の成長期には極めて単純で、経営も費用管理も特段の能力を必要としなかった。かかる事情により、競技を伴う公営競技の場合、開催費用は管理の対象にもならず、確実に固定化し、高止まりになるという性格を保持している。経済成長が持続し、インフレ基調となる経済的状況の場合には、問題も起こらず、その経営は、二年に一度は確実に交替する地方公務員でも充分であったのだろう。この節目が変わってきたのは平成元年頃になる。これはバブル崩壊時と一致する。売り上げがピークに達し、この時点以降、ほとんどの地方公営競技は例外なく、年々売り上げが減少する事態を招くことになった。あらゆる賭博種において、売上(総賭け金)は年々、段階的に減少していき、既に約20年間に亘り、市場が縮小化する状況が生じている。この趨勢は宝くじ、中央競馬等でも同様で、賭博ではない遊技(パチンコ、パチスロ)でも全く同様の傾向がみられている。
売り上げ(総賭け金)が年々減少していくということは、市場が構造的な問題を抱え縮小化しつつあることになり、かかるエンターテイメントに関する市場の構造的な変化がその理由であることを示唆している。これは単純ではなく、下記複合的な要因によるものと推定される。
① 固定化する顧客層:
公営競技に見られる賭博は伝統的な余暇の過ごし方でもあったが、明らかにファンが老齢化、固定化し、若い世代を新たな顧客として取り込めていない。一定の顧客は存在するが、顧客層が固定化し、新規顧客を開拓できていない。かかる事情により、構造的にかつ段階的に顧客総数が縮小し、顧客賭け金単価及び賭け金総額も年々減少しつつあるということになる。
② 顧客の遊び行動の多様化等の市場環境の変化:
レジャーの多様化と余暇の過ごし方の選択肢が増大したことにより、かかる遊興の顧客総数が絶対数として減少しつつある。レジャーの選択行動の中で、時間と金の使い方に多様性が生じ、公営賭博の価値が相対的に減少するという事象が生じた。また不況の長期化等の経済要因や地方産業や地方経済の衰退化等市場環境の悪化にも関係しているが、賭け金単価の減少が更に売上総額の減少をもたらしている。
③ 魅力の喪失、人気低迷、対顧客マーケッテイング不足:
過去、特段の努力をしなくとも、一定の人気が存在し、十分な売上も確保されたことから、公営競技自体を面白くし、顧客の興味を引く賭け事にするという努力は殆どなされなかったという事情がある。この結果、競技自体の魅力が無くなり、人気が低迷していったということが現実であろう(勿論、賭博種によってもこの事情は異なり、一部に関しては人気回復を図る様々な試みや努力が実践されつつある)。
④ 顧客サービスの質の劣化と顧客の離反:
施設自体の老朽化が進み、顧客に嫌がられると共に、公的主体が経営者では、顧客の立場に立ったサービスができず、客商売という認識も欠如していた。また一部を除き宣伝・広告は下手である。顧客のニーズから離れ、サービス向上を図るという努力も無いことが、顧客の離反、売上げの段階的減少を招き、ジリ貧の状態をもたらしたといえる。
勿論全ての賭博種、全ての開催者が同じ状況にあるわけではなく、事態の深刻度は異なる。くじ系賭博は、新たな商品導入等により、売上減少の程度は緩く、中央競馬や関東等の人口集中地区における地方競馬は、その他の地方公営競技に比較すると問題の深刻度は弱い。一方、過半の地方公営競技は、多くの施設で深刻な状況に陥っている。売上げが年々減少しているにも拘らず、開催経費が高止まりするという状況は、事業収支を悪化させ、事業を継続すればするほど赤字が累積、積立金も底をつき、事業自体が破綻しかねない様相を引き起こしてきた。一方、主催者は公的主体であるがために、リストラや首切りはできず、既存の利権を崩すことに対する政治的反発も強く、身動きが取れなかったのが実態であった。このため平成19年度以降、一部自治体による公営競技開催権返上や、事業廃止などの動きが頻発するに至った。これに対応する為に、平成20年に公営競技関連諸法の改正が行われたのだが、必ずしも完璧な解決策になっていない。その後全く同じ問題が深刻化し、平成24年度に再度公営競技関連諸法の改正が行われたが、問題の本質的解決には至っていない。小手先の延命策で課題の解決を先延ばしにしているだけでは、再度問題が再燃しかねない。