では如何なる選択肢が適切なのであろうか。自由民主党が与党時代に出した提案は、法律上の施行主体を地方公共団体としながらも、この施行者が公募により民間の開発・運営事業者を選定し、同民間事業者に対し、カジノを含む複合観光施設の企画、資金調達、整備、運営を包括的に委託することにより、業務、責任、リスク、収益を公民で分担しあうという中間的な考え方でもあった。この場合、法律上の施行者は地方公共団体で、民間事業者はリスクを取り運営を担う包括受託事業者という位置づけになる。一方超党派議連の時代になり、民主党が出した提案とは、国が複合観光施設を設置する区域(地方公共団体)を選定・指定し、この指定を受けた地方公共団体が公募によりカジノの開発、企画、資金調達、整備、運営の全てのリスクを担う民間事業者を選定、地方公共団体と民間事業者が一種の開発契約を締結し、複合観光施設区域に民の運営による複合観光施設(統合型リゾート)を実現させるという考えになる。但し、当該民間事業者は別途国の機関からその適格性に関し、認証を取得できない限り、運営できない仕組みを前提とした。この場合、カジノの制度上の施行者はあくまでも民間事業者となり、地方公共団体は民間事業者を誘致し、開発投資の実施を管理するという管理者の立場に近い。いずれの場合も、国、地方公共団体、民間事業者の関係性をどうデザインするかという基本命題なのだが、両者の案は法律上の施行者を地方公共団体とするか、あるいは民間事業者とするかの選択肢であり、根本的に異なる。
どちらもわが国で実現できないことはないのだが、実現の難易度や論点は大きく異なってしまう。かつ、制度も実務も全く異なることになる。どこがどう違うのであろうか。
① (当初の)自民党案:
公営賭博との類推より国民に安心感を与えられる、あるいは公が管理することにより、大きな問題は生じ得ないという期待感とともに、国・地方公共団体を含む公的部門が施行の最大の財政的メリットの享受者となるべきとする考え方に基づいている。もっとも胴元がリスクを担う賭博行為を地方公共団体が例え名目的でも施行者となることが適切かという議論と共に、施行者としての立場と管理者の立場が輻輳し、利害相反が生じやすいこと、国と地方公共団体の基本関係も曖昧になること等の課題がある(即ち、公的主体としての地方公共団体の立ち位置が不明確になる)。また、高規格のエンターテイメント施設や、付帯観光施設等を公的主体が保持し、運営するのはいかがなものかという考えもある。この仕組みは、地方公共団体と民間主体との間の契約でリスク、責任、収益をも分担するという実務的には極めて複雑な内容にならざるをえなくなる。この場合、施行収益の帰属は一義的には施行者たる地方公共団体となり、民による施設整備に伴う投資の減価償却や追加投資、危険損失準備金など全ての投資運営費用をガラス張りで、計画し、実践し、オープン・ブック方式で費用と収益を精算し、分担するという仕組みになってしまう。この考えは米国部族カジノやカナダのオンタリオ州の制度に近い考え方になる。但し、契約的にはかなり複雑になってしまうと共に、わが国の地方公共団体にとり、前例のない手法となるため、実務的対応に関しては大きな懸念が残る。
② 超党派議員連盟案:
公営ではなく、免許を得た民間事業者を制度上の施行者とし、民間事業者にカジノ施設の所有と運営を委ね、公的部門は規制、徴税と管理監督・監視のみにその所掌を留めるべきではないかという主張になる。但し、我が国では、伝統的に公的部門が独占的に管理し、運営してきたのが賭博の世界でもあり、賭博行為の施行者を民に変えようとする場合のハードルは高い。賭博行為によるあぶく銭を民間が営利目的で取得するという構図は、正しい認識ではないのだが、かかる誤った考えがパーセプションとして存在し、国民も、行政府もこれを嫌がるという傾向は確かにある。但し、地方公共団体の立場をより明確化し、その負担を軽くし、自治体は、本来の業務である観光振興・地域振興・企業誘致・雇用確保、地域社会の公序良俗の維持などの政策目的の推進を主要な役割とすること、民間事業者はカジノを含む特定複合観光施設の実現を(税金を使わずに)自らの費用とリスクで担い、かつそこから地域のために税を負担するこという役割分担は、制度や法律上の構造としても、実務としても極めて判り易い内容になる。ここには利害相反はありえない。
この仕組みは、自治体は施行の管理者、国と共に税の徴収者、国は認可・規制・監視により施行の安全性・健全性を担保するが、如何なる施設をどう作り、地域をどうしたいかは全て(国ではなく)自治体の発意とし、自治体主導で実現するという構図に近い。民間主体はこの自治体の発意を実現する担い手として、計画、開発、投融資、運営を担うという考えになる。国・自治体は複合観光施設のあり方や運営に関与すべきではなく、あくまでも管理者・規制者の立場に立つべきというアプローチでもある。法律的には単純となるが、違法性阻却の前提として民による施行をどう認知させるかは、わが国では前例のない考え方でもあり、ハードルは高くなる。
どちらの場合でも、この考えを条文に落とすことは、過去に経験のない試みであることには間違いない。但し、統合型リゾートの本来あるべき姿を考える場合、公的部門主導ではなく、民間の活力、創意工夫を如何に発揮させるかを前提に、民主導でこれを考えることが本来の筋でもあろう。この超党派議員連盟の案は、自民党も賛成し、基本的にはこの案を推進することで与野党合意が成立している。尚、地方公共団体の立ち位置を管理者の立場に留め、曖昧な位置づけにすべきではないとするのは過半の地方公共団体の意見でもあった。