地方公共団体から選定される民間事業者が規制機関たるカジノ管理委員会に対し、カジノの施行に関する免許を申請できるタイミングは何時とすべきであろうか。詳細は実施法ないしはカジノ管理委員会による規則で定められることになるのであろうが、このタイミング及び審査に必要となる時間次第では、地方公共団体や民間事業者にとってのリスクは大きく異なってくると共に、審査・免許を担う規制機関にとっての作業量や負担も大きく異なってしまう。制度のあり方次第では簡素な組織にはならず、如何に効率的、効果的な業務ができるかを考えざるを得なくなる状況をもたらす可能性がある。現段階では制度のあり方は今後の議論の対象となり、不透明と言わざるを得ないが、理論的には下記可能性があり、諸外国にもこれらと類似的な様々な考え方・手法が存在する。
① (選択肢1)地方公共団体が民間事業者を選定する前の時点で、潜在的民間事業者候補による国に対する免許申請を認め、地方公共団体は一定の審査を通過し、(仮の)免許を取得できた民間事業者のみを公募の対象にする:
区域・免許の数が限られていることを前提にした場合、区域を指定する前に、潜在的民間主体の申請・(仮)免許を認めてしまうと、規制機関は地方公共団体に選定されない潜在的民間主体を含めて数多くの事業者を審査の対象にせざるを得なくなる。この結果、作業量は増え、組織として余程準備しておかない限り対応は遅れる。時間がかり、内容が甘くなるリスクや精緻な審査ができないリスクを行政は抱えてしまう。一方潜在的な民間事業者にとってみれば、免許が確実に取得できる前提で、応札に応じることになり、予め競争が制限されるというメリットがあるが、申請に伴う費用や準備等はアップフロントで必要になる。他方、地方公共団体にとっては、予め国がその廉潔性や適格性を確認した主体のみが応札に参加することになり、事業者の適格性審査等を省略できると共に、事業者が免許を取得できないリスクを回避できる。
② (選択肢2)地方公共団体が民間事業者を選定した後の時点で、選定された民間事業者のみが国の機関に免許を申請できる:
一方、免許を申請できるのはあくまでも地方公共団体により選定された民間事業者のみとする考えもある。この場合には、限られた数の事業者のみが規制機関に免許申請することになり、規制機関の作業量を大幅に減らすことができる。かつ、時間をかけて厳密な審査や調査を効果的に実施することができる。一方、地方公共団体や民間事業者からすれば、入札・落札時点では果たして国の機関が免許を交付するか不明ということになり、免許を取得できないリスクを抱えることになる(これは事業者の適格性につき、地方公共団体がある程度の判断をせざるを得ないことを意味する)。勿論規制機関による免許取得を自治体と落札事業者間の協定発効の先行条件とすることもできようが、そもそも規制機関による審査はどのくらい時間がかかるのか不明でもあり、これでは何時協定が発効できるかの目途を立てることはできなくなる。民間事業者の融資金融機関も免許交付を融資の条件とする可能性が高く、こうなると資金調達戦略も単純ではなくなってしまう。
米国マサチュセッツ州では上記①と②の中間的な手法を採用した。即ち、潜在的事業者の資格審査・適格性を一種のPQ(資格審査)として実施、これと平行して事業者が地方政府を選定し、地方政府と立地に関する条件を詰め、この合意が得られた場合、初めて事業ライセンスを申請できるという手順とした。免許申請を二段階とし、関係者の費用と時間をできる限り縮減するという試みでもあった。
③ (選択肢3)地方公共団体が民間事業者を選定し、協定に基づき民間事業者が一定の投資行為を実施した段階で、初めて当該民間事業者が免許を申請できる:
事業者が地方公共団体との協定に基づき、一定の資本投資を実施した時点(例えば予定投資総額の50%の投資を実施した時点)で初めて免許申請ができるとする考えでもある。地方公共団体との契約はあくまでも投資誘致や開発事業であって、これと国による免許付与は全く異なるとしてリンクさせない前提をとる。確実に免許が交付されるまで、地方公共団体と当該民間事業者は免許不交付のリスクを抱え、この状態で投資・建設を開始せざるを得ないという考え方になる。規制機関は十分な時間的余裕があるため、スリムな体制でも時間をかけて詳細に当該事業者の精査・調査を実施することができるというメリットが生まれる。
ニュージーランドは選択肢1を採用したが、施設設置数が限定されたため、金と時間をかけて「免許」は取得できえたが、実際には施行者として選定されない民間事業者が生まれてしまったとい事象が生じた。シンガポールは選択肢3を採用したが、免許が取得できたのは運営開始直前でしかなく、かなりの長期に亘り、民間事業者がリスクを抱え込んだ。米国マサチュセッツ州では2に記載した中間的な手法を探り、当面は仮免許(適格性審査)で地方政府との条件を纏めさせ、合意後、本免許申請させる手法をとり、公民いずれもが、費用とリスクと時間を縮減できる手法等も試みられている。
では、我が国では如何なる考えを採用すべきかは、微妙な選択肢と判断になる。公・民各々がどの程度のリスク許容力があり、かつかかるリスクを許容できる制度や規制の仕組みとなっているか次第でも、判断は分かれる。また、規制当局の体制や業務処理量によっても考え方を変えざるを得ない側面もあり、全体の仕組みを構築する過程で、この問題を再考する必要があろう。