国が免許により商業的な賭博行為を民間主体に認める行為は、現代社会では様々な国々により実践されている。但し、賭博行為である以上、通常の産業とは異なり、様々な規制の網がかけられ、公的な管理がなされる側面があり、これらに係わる固有のリスクがある。また、その経営や運営に関しては、通常の産業と同様に様々なリスクをも抱える業になる。この商業的賭博行為は業としてその経営や運営が安定していることが前提で、経営や運営上大きなリスクを抱えたり、財務的な状況が不安定になったりすることは本来好ましくない。運営リスクを抱え、財政不安が顕在化する場合、そこに悪や組織悪が介在する、あるいは不正が行われるリスクがより高まってしまうと考えられるからである。制度としての民によるカジノ施行は、当該商業的賭博に従事する民間主体が清廉潔癖であることと共に、その経営や運営が安定することにより、初めて機能し、成功する。
では、カジノの運営に関しては如何なるリスクがあると想定すべきであろうか。留意すべき主要なリスクとしては下記等が考えられる。
① 信用喪失・顧客離れ:
一般顧客や市民がカジノを楽しむのはその施行や制度のあり方が、公正であり、安全かつ健全であることを信頼し、信用しているからでもあろう。不正、いかさまが施行者や顧客にもしあり得たとした場合、一挙にこの信用は崩れ、顧客離れと収益減少が生じる可能性が高い。同様に、悪や組織悪が何らかの形でカジノの運営に関与した場合も、顧客の信頼を損ねることになりかねない。公正さ、安全性、健全性は、カジノ施設が常に、かつ完璧にこれを保持・保全して、初めて顧客の信頼を勝ち得ることができる。制度と規制は、これを実現し、担保するためにこそある。かつまた安全性や健全性はカジノ施設に来訪する顧客の質にも依存する側面がある。質の高いサービスを提供し、質の高い顧客を集客することこそが、遊興施設としてのカジノの運営や経営を安定させることに資することになる。
② 人気喪失・顧客の減少:
カジノは基本的には顧客商売であり、サービス提供業であることを認識する必要がある。この意味では、カジノが提供する様々なエンターテイメントとしてのサービスの質が低下したり、サービス自体に魅力が無くなったり、施設や施設がもたらす様々な機能等が不十分であったり、欠落したりする場合には、当初はよくても段階的に顧客の物理的減少を招くことがある(人気が無くなり、安定的顧客層が少なくなり、絶対顧客数が減少する)。またこれが理由となり、収入の減少、更なるサービスの劣化や顧客減という悪循環に至り、これが上記①のトリガー要因になってしまったりするというリスクも生まれうる。
③ 個人・法人等による不法行為や不祥事に基づく許諾等の剥奪・取り消し:
カジノの施行者自身あるいはその構成員が何らかの不法行為や不祥事を起こした場合、免許や認可の停止、取り消し、剥奪事由となる可能性がある。最悪の場合、事業継続不能事由となり、ある日突然死ということにもなりかねない。不法行為は企業にとってもその構成員たる職員にとっても致命的な影響をもたらすことがある。よって、コンプライアンス(法順守)はカジノの運営に関わる主体にとり最も重要な行動規範の一つになる。また、しっかりとしたコンプライアンスの体制を具備することが、免許が付与される条件ともなる。
④ 投資と収益規模のアンバランス:
商業的におこりやすいリスクとは安易な過剰収益予想に基づく、過剰投資、実際の収益レベルが予想に比し、低い場合で、資金ショートに陥り、債務返済ができなくなるというリスクでもあろう。かかる場合、財政不安や財政破綻をトリガーしかねないというのは、カジノも通常産業と同様である。但し、商業的賭博の場合には、通常の場合、極めて高いキャッシュフローを生み出しうることより、どうしても楽観的なバイアスがかかり、市場規模や市場の大きさ、顧客の支出性向を過大に評価してしまうリスクが大きくなる。大都市や初めての施設、アクセスの良さや集客の確実性などが見込まれる場合には特例であろうが、地方であったり、アクセスの悪さや潜在的集客力などに課題があったりする場合には、単純ではなくなる。かつ制度や規制のあり方次第で集客や顧客の支出行動等も大きく変わる要素があり、かかるリスクも収益規模に影響をもたらすことになる。
この様に、カジノ施行のリスクとは、免許や認可等に関連したカジノ固有のリスクもあるが、過半は通常の集客施設のリスクと変わらない。顧客を惹きつける魅力を喪失した場合には、カジノといえども大きな運営上のリスクを抱えることになる。需要予測を間違え、過剰な施設整備を実現した場合も同様である。