諸外国におけるカジノ関連の制度には、規制があまり無く、極めて緩い環境の制度と、逆に厳格かつ詳細な規制による厳しい環境となる制度との二種類がある。かつ認可の対象範囲も、直接的に施行に関与する法人・個人のみを主たる対象とする限定的な制度もあれば、カジノ施設に直接的・間接的に関係しうるあらゆる法人・個人を対象にしてしまうという厳格な制度もある。一方、施行にかかわる法人・個人は、今やグローバルに国境を跨る活動をすることが常識的になりつつあり、様々な技術やシステムあるいは機械・器具の類も、様々な国々で類似的に使用されている。この事実は、各国の制度の厳格度に差異がある場合、様々な問題を引き起こす可能性を秘めている。
かかる環境下で、もし緩い制度を設けた場合、厳格な国では到底認められない個人・法人が安々と免許を取得できてしまうということになる。これでは、ただ単に外国で免許を得て、実績もあるというだけでは、当該主体の廉潔性を保証することにはなりにくい。企業や個人がグローバルに活動する時代においては、賭博規制の厳格度のレベルはできる限り類似的であることが、世界規模で活動しつつある組織悪等に対する効果的な施策になる。わが国においても、規制の厳格度は他の先進諸国に比して、甘いと判断されないレベルを志向することが必要であろう。かつ、本邦の企業のみならず、外国の企業(法人)・個人も、わが国における施行に直接的ないしは間接的に関与し、免許申請主体となる可能性がある以上、認可や審査の在り方に関しても諸外国における慣行と実態を考慮した上で詳細な制度設計をすることが好ましい。この意味では、規制の緩い国の制度は参考にすべきではない。かつ、曖昧な制度の国で認可を取得している法人・個人の価値は、もし、かかる主体が我が国において認可を申請した場合には、その経験・価値を減殺して考慮することが適切でもあろう。逆に、厳格な制度の国において免許を取得している主体に関しては、当該国の規制機関と既存の免許に係る情報交換をすることにより、審査や評価を簡素化できる側面もある。
諸外国における制度と規制機関との関係性に関しては、特に下記点に留意する必要がある。
① 先進諸外国と同等レベルの規制の厳格度を保持する必要性:
エンターテイメント・カジノの世界は、厳格な制度を構築することが世界の潮流でもあり、新たな制度構築を図る場合には、厳格な制度を保持する先進諸外国の制度を参考にしつつ、同等レベルの厳格な規制と制度を前提にすることがグローバル化する世界では必須の条件になりつつある。相対的に甘い規制環境の国の制度は参考にすべきではない。悪や組織悪を引き寄せかねないからである。
② 先進諸外国の規制機関との効率的・効果的な情報交換の必要性:
テロや組織悪の活動はグローバル化しつつあり、効果的な諸外国の規制機関との情報交換や連携・協力は必須の要素となりつつある。公安当局を含めた規制機関同士での効果的、効率的な情報交換が無い限り、組織悪やテロに対応できない世界になりつつる。カジノ関連犯罪の最近の傾向は、国際化しつつあること、その手段が巧妙になりつつあることにある。組織悪にとり国境の壁はないわけで、これに効果的に対応するためには、各国の規制機関同士が、不断に情報交換や連携・協力をせざるを得ない状況を生み出している。その他、法の執行の在り方や、規制・免許・認証に係る実務的なベスト・プラクテイスに関する情報交換、機械・器具・ソフトウエアやシステム等の試験結果や認証等に関する技術情報交換も有用であろう。
③ 免許審査に関しての申請者に関する先進諸外国の規制機関との情報交換の必要性:
グローバルに活動する企業は、複数国で免許を取得し、活動しており、これら企業が我が国市場に参入する可能性は高い。この場合、適格性審査に係わる法人・個人情報は、当該主体の同意の下に免許を取得した国から調査・審査情報を取得することができれば、審査の簡素化、迅速化に繋がる可能性がある。規制の厳格な国で正当な免許を取得できているという事実は、評価に値する。逆にこれらの国で問題視された企業は、わが国においても相応の評価を受けるべきであろう。
④ 免許付与後の諸外国の規制機関との情報交換の必要性:
国境を跨る活動をする免許を付与した主体に関しては、その活動をモニターし、法順守の状況を監視するためにも、諸外国の規制機関と不断に情報交換する必要がある。また、必ずしも犯罪人ではないが、各国の規制当局によりブラック・リスト化された個人が、国境を跨がえて、わが国の施設に顧客として参加する可能性もゼロではない。カジノ施設の健全、安全な運営の障害になりうる人物は、外国人であっても当然排除の対象になる。かかる主体の情報を諸外国の規制機関との間で交換し、カジノの顧客として参加することを防ぐことは問題や犯罪を未然に防ぐという意味でも必要である。
犯罪情報の交換、あるいは規制機関・公安当局間での情報交換や調査等に関する連携・協力は、外交ルートを通じて関係省庁を経由してなされてきたのが過去の実態でもあろう。但し、かかる形式や手法をとっていては、迅速な判断・行動を求められる現代社会にはそぐわない。悪や組織悪に果敢に対処するためには、各国の規制機関や公安当局が、犯罪情報/非犯罪情報を含めて、直接情報交換や協力・連携できることが必須の前提になる。諸外国では規制機関同志が協定を締結し、かかる協力・連携体制を取りつつある。