自己排除プログラムは、対象となる個人のみが申請できる仕組みや制度でもあり、あくまでも当該主体による任意性の強いプログラムでしかない。ここには、強制的に対象者を排除の対象にするという発想や考えはない。
一方、豪州、カナダの一部やシンガポール等では、この自己排除プログラムをより発展的にして、自己排除プログラムと併用する形で、強制力をもたせた「家族排除プログラム」を制度として設けている。対象となる顧客を排除するという意味では表面的には類似的だが、申請者は本人ではなく、直系の家族となり、かつ、強制的な排除の側面を保持することから、本質はかなり異なる。このプログラムは、例えばシンガポールの事例を見ると、下記の如き考え方になる。
1)対象となる主体の直近の家族(子供、親、兄弟。21歳以下の場合は親族が一緒に申請することが必要)が直接的な申請者となることができる。申請を受理する主体は国の指定を受けた非営利法人である治療カウンセリング・センターとなり、申請者となる家族が直接出向き、面談を受け、書面にて申請する必要がある。対象となる主体が、家族に対し直接危害を与えている場合(金銭、暴力等)、被害者となる家族が直接救済を求めるしか手法はなくなる。
2)上記センターで家族がカウンセリングを受ける場合には、結果として申請書類は国の専門的な機関に回付される。この国の専門的な機関の中に、地域社会代表者、専門家を含む評価委員会(Committee of Assessor)が組成され、この委員会が、申請内容を審査・評価し、申請後28日以内に本人を、必要な場合証人と共に召喚することができる。最終判断はこの委員会に委ねられることになるが、排除が認められる場合には、評議会が排除命令(Exclusion Order)を出すことになる(命令に関し、本人の同意は必要条件ではなく、不服の場合には、裁判所への提訴手続きを取らざるを得なくなる)。この場合の命令とは行政処分に近く、当然のことながら法的拘束力を保持する。 尚、2013年法律改正により、この評価委員会は、家族の被害が明らかである場合、対象者を召喚し、精査する前に即刻仮排除命令を出し、家族にとっての被害を縮小化できる権限が付与されることになった。
3)排除命令はカジノ施行者、規制当局、警察当局に配布されることで有効となり、関連類似施設を含めた賭博施設への立ち入りが禁止される。尚、この排除を解除する場合には同様に家族、本人による解除申請が必要で、第三者専門家やカウンセラーによる評価・審査・確認・許可の手順を必要とする。また症状が治癒していることの確認が求められる。
家族排除プログラムの特徴は、家族や本人を更なる危害から守るため、その申請と排除決定に際し、必ずしも本人の同意を必要としないことにある。これが為に、専門家を交えて、第三者が中立的な立場から評価・審査し、判断を下すことになる。本人の意思に基づく自己排除プログラムでは、申請者本人の申請となるため、家族や社会への深刻な影響が表れているにも拘らず、本人が問題を自覚せず、問題への対処が遅れてしまうということも起こりかねない。これでは、問題がこじれるばかりで、解決に至らない場合も多い。かかる事情により、本人ではなく、現実に被害を受ける家族による申請を認め、家族や社会に対する被害を縮小化するために、より強制力、拘束力のある考えをとることが家族排除プログラムの本質になる。本人のみではなく、家族や第三者を関与する形でのプログラムとなるがために、慎重な手順を踏み、当該本人が本当に深刻な依存症の症状を呈しているか否か等の診断、評価、並びに排除の判断は、第三者たる専門家が担うことになる。透明性のある手順やより客観的な判断に依拠することにより、排除の正当性を確保し、問題の深刻化を未然に防ぐという考え方でもある。
家族排除プログラムは、有効にその制度が設計される場合には、賭博依存症が家族や社会にもたらしうる悪影響を効果的に縮小化することを可能にする。但し、プログラムを効果的に実践するためには、施行者レベルではなく、国の組織が必要になり、対象者や対象となる事象を冷静かつ正確に判断できる専門的知見と強制的排除に関する法的な根拠も必要とする。かつ、何等かの手法で物理的、効果的に対象者を入場時点で排除できる仕組みも必要となる。わが国においても、これらは実現できないことはない。