既に述べた通り、ゲーミング・カジノは歴史的には特権階級や富裕層のための余暇の一手段として生まれたものである。これが段階的に一般化し、大衆化し、一般庶民がこれに参加するようになり、市場自体が大きく拡大した。第二次世界大戦後の平和の時代の継続、社会経済の発展と国民所得の向上は、ゲーミング・カジノの一般化、大衆化とともに、その成長と繁栄に大きな貢献を果たし、今日に至っている。また、この歴史は顧客層を段階的に拡大していくという遊興施設発展の歴史でもあった。カジノが単純遊興賭博施設であった時代には、顧客の大半は日帰り客、しかも男性が主体であり、単にギャンブラーを集めるだけの単一目的施設でしかなかったともいえる。これでは市場は拡大しない。これが段階的に変化していったのは、対顧客サービスを高める様々な戦略が考慮され、施設やサービス、機能を拡充し、顧客層を増やし、顧客の満足度を高める多種多様な手段が取られてきたことによる。即ち、宿泊施設や、飲食施設、ライブ・エンターテイメント、物品販売施設などを併設しつつ、多種多様なスポーツ施設、遊興施設を兼ね備え、連泊で余暇をすごし、多様な楽しみを提供できるような施設へと転換を図ったわけである。単純なギャンブラーの為の施設から、多様なアメニテイーを取り揃えた、よりファミリー志向となる滞在型リゾート施設へと転換していったことが老若男女を含む多種多様の顧客層を拡大し、市場を広げ、全体消費の拡大をもたらしたといってもよい。またかかる考え方がゲーミング・カジノの今日の隆盛をもたらしたともいえる。
勿論この様な発展を遂げた大きな背景として、ゲーミング・カジノの安全化、健全化が図られ、カジノが誰にとってもアクセスしやすい、健全な遊興施設となったこと自体が顧客層の増大に貢献したという事実もある。また、ゲーミング・カジノは収益の核になる事業だが、これだけではなく、多様なサービスを顧客に提供することにより、顧客の満足度を高め、多様なニーズに対応できる施設とサービスを付帯的に提供できたことが顧客層拡大に大きな役割を果たしている。これにより、施設や地域を訪問する顧客数の絶対数を増やし、この顧客増が更なるシナジー効果をもたらし、新たなサービスを生む仕掛けへと繋がっていく。所謂著名観光地におけるカジノ施設は、多様なアメニテイーを含む滞在型リゾート施設と自らを位置づけ、その施設やサービスの多様性で多くの顧客層を惹き付けるに至っている。一方、かかる観光地において、コンベンション施設等を併設し、コンベンション客を誘致することにより、ビジネスとリゾートとを融合し、ビジネス顧客をも惹き付ける戦略も同時平行的に定着しつつある。都市におけるカジノ施設も、同様に、大型化、多機能化、リゾート化し、コンベンション施設やショッピング・モール、あらゆるエンターテイメント施設等を網羅した複合的な観光施設へと発展している。この場合、顧客支出単価の高い顧客をターゲットに集客すること、できる限り長く連泊させ、滞在させることが、顧客集客戦略の基本となっている。
このように、多様な客層を多様な形で包摂でき、多様なサービスを提供できることが、現代のカジノ施設の大きな特徴でもあり、その成功の一因ともなっている。老若男女を含む普通の顧客や観光客、ビジネス顧客などの来訪客、あるいは地域住民を含めた顧客層を大量に集客し、これら顧客に様々な遊興や、あらゆるサービスを提供し、消費を誘発する施設群がカジノを核とする複合観光施設ということなのであろう。このような一般顧客がゲーミング・カジノの底辺の需要を支えているわけで、これを一般顧客市場(Mass Market)という。
勿論、ギャンブルのみを好んでやるギャンブラーがいなくなったわけではない。特に、高額な賭け金をはる顧客はVIP顧客あるいはハイ・ローラーと呼ばれ、一般顧客と峻別される(VIP顧客市場、VIP Market)。VIP顧客は一般顧客と比較すると、数の面では劣るが、収益に対する貢献という意味では、一般顧客市場よりその価値ははるかに高くなる。かかる事情により、VIP顧客に対しては 一般顧客とは異なったアクセス、隔離された格調高いスペースが確保され、特別のマーケッテイング努力や顧客対応サービスが提供されることが通例となる。実際のカジノ施設では、その施設の地理的・戦略的特性や、これを支える市場の構造により、顧客の在り方も異なってくる。当該施設の特性を生かした上で、如何なる集客戦略を取れるか、あるいは取るかは、個別のカジノの経営・運営を担う民間主体の戦略と能力如何ということになる(例えば、施設の在り方や顧客の在り方を考える場合、VIP関連施設と一般顧客施設をどう振り分け、如何なる施設内容とするかは、個別企業の対顧客マーケット戦略によっても大きく異なってくることになる)。