施行地域や施行数を限定する施策を採用する場合、カジノに係るライセンス(免許)は、単にカジノを施行するためだけの免許ではなく、その他の要件や条件をも付帯的に含むことが現代社会の特徴の一つになっている側面もある。即ち、一定の要件を満たすことを条件として、ライセンス(免許)が付与されることになるが、生半可な要件ではない(手順としては、例えば、入札の条件として付され、公的主体と一定の開発契約等を締結し、約束をコミットした後に、ライセンス申請ができる)。例えばニュー・ジャージー州アトランテイック市の場合には、最低500室のホテルを併設したホテル・カジノとすることが制度上のライセンス付与の前提条件ともなった。この投資を実現できる資金力を保持し、かつこれを維持運営できることがライセンス付与の全ての前提になったことになる。この他、一定地区再開発のためにコンベンション施設やホテルを併設した複合観光施設の中にカジノを設けることが条件となったり(ミシガン州、ニュージーランド、オーストラリア各州)、為政者がコンセプトを提示し、これを実現できる投資提案の中にカジノ施設をも組み入れる競争(コンペ)であったりする(シンガポール)。カジノがもたらす投資誘発効果、集客力、経済効果を期待し、これを核としながらも、地域社会への経済的貢献を要求したりする、あるいは当該地域への再投資義務を課したりする等複数の政策目的をカジノの実現に絡めて実現しようとする施策の実現ともいえる。カジノが生み出すキャッシュフローと利潤の許容範囲内において、一定の義務を課し、社会的・地域的な貢献を実現させるという考え方にもなる。かかる施策の効果的なツールとしてカジノ施設が用いられているということでもあろう。
この場合、公募による競争により、施行者を選定することになるが、どういう要件が公募の前提となるかは、予め公募の前提条件として要件定義を行い、開示することになる。実務上の手法としては一種の投資誘致公募(コンペ)方式になり、開発投資提案を募り、この中でカジノを含む複合観光施設の整備と運営を民提案・民資金により実現するという考えになる。公募の時点で、既に制度的枠組みが制定されている場合もあれば、制度はまだ実現しておらず骨格の前提しかない場合もある。巨額の投資を前提とする場合、施行数や競争環境が限定されるという前提でなければかかる公募は実現できない。かつまた、制度や規制の在り方や、施策方針、あるいは税率等も、投資家にとっては重要な判断要素になるために、予めその大枠を市場に提示しない限り、誰も興味を示さなくなる。但し、公募時点での金融環境、当該市場における市場環境と成長可能性、集客の可能性等全ての要件を満たせる場合、理想的な競争環境が成立する。この場合、カジノを実現するというよりも、カジノを核としながらもその他様々な機能を保持する複合エンターテイメント施設を地域開発の要として誘致するという考えに近くなる。2006年に実施されたシンガポールにおける統合リゾート(Integrated Resort, IR)の公募は全ての条件を満たし、多くの投資家をひきつけ、成功した入札事例となった。その後のこの二つの統合リゾート(IR)の実現と成功は、一つの政策が国家的な経済的恩恵をもたらした典型的なサクセス・ストーリともなっている。一方、同時期に、似たような手法で試みられたイギリスの例は、地域選定の過程で政治的トラブルに巻き込まれ、緻密な手順が踏まれたにも拘らず、結局カジノ事業そのものが宙に浮いてしまい、実現できなかった。うまくいく場合もあれば、失敗することもあるということであろう。
尚、ライセンス付与の在り方には二つの異なるアプローチがある。一つは、公募、落札により自動的に施行者が選定されることを前提に、事業者選定手順の前に予め事業者の適格性を国が審査し、その適格性が国により認証された主体のみが公募に参加するケースである。もう一つの考えは、事業者選定と事業者の適格性審査を切り離し、落札はあくまでも開発投資提案とし、事業者選定を先行し、当該事業者が投資のコミットメントをある程度実施した段階で初めてカジノのライセンスを申請できるケースになる。前者の場合、国が潜在的候補者全員を赤ら予め審査、認証することになるため、国にとっても民にとってもかなりの費用と時間の無駄になる。後者の場合は、逆に選定された事業者のみの審査をするために、国の負担は減るが、民間事業者は免許を得られないリスクを長い期間に亘り、抱えることになる。
公募により事業者により民間の開発投資提案を募る場合、重要になる政策的判断の要素とは、
① そもそも何のためにかかる施設を設けるのか、そのニーズと目的を慎重に検討し、定義する必要があること、
② 計画自体が、実現性のあるものでなければ意味がないこと、
③ 想定される事業収支や、事業計画がニーズに合致し、かつ実現性の高いものであり、これが持続されうることが必要となること(さもなければ、誰も投資しない)、
④ 如何なる施設類型が求められているのか、その概念や方向性、コンセプトを明示的に定義する必要があること(例えば施設に関する主要属性、求められる施設コンセプト等)
等になる。
免許(ライセンス)の要件が、大規模な投資計画の実施を前提とする場合には、単純なカジノライセンスの付与と判断されるべきではなく、一定の地域開発計画の中にカジノがその要素として組み込まれていると判断すべきであろう。より大きな地域政策の中でエンターテイメント施設をその一要素として捉えるという考え方になる。