ゲーミング・カジノに関する法の執行を担う行政機能を英語でGaming Enforcementと呼称する。わが国の言葉でいえば、法の執行であり、公安当局、ないしは警察機構の一部機能なのだが、その業務の内容が極めて特殊であり、かつ独自の専門性を要求されることが特徴になる。かかる理由により、米国では、①通常の警察組織ではなく、警察機構の中に一つの部門として、独自の専門性と業務を担う限りなく独立した機関を設ける場合や、明らかに権能と所掌を峻別し、既存の組織とは別の組織を設ける場合もある。あるいは、②既存の警察機構の枠組みを活用し、この中で窓口的なセクションを作り、ここが既存の警察・公安機構を動員する形で機能を発揮する場合等もある。前者(①)は、施設数がある程度多く、業務量も多く、より専門的なアプローチが必須な状況の州(例えば米国ニュー・ジャージー州)に散見され、後者(②)は、具体の施設数が限定され、業務量も限定される状況があり、既存の組織をうまく活用しながら、費用も縮減しながら処理できる州(例えば米国ミシガン州、ペンシルベニア州等)にその事例を見ることができる。いずれの場合も、かなりの専門的業務が要求されるため、当該組織自体は特定の目的のための専任組織になる。
法の執行を担う機関の主な役割とは下記になる。
即ち、規制機関の下で(必要な場合)規制機関の事務的機能を担うと共に、規制機関の全般的支援、許諾申請があった場合の全ての申請者に関する適格性審査・背面調査の実施、規制機関に対する許諾ないしは拒否の報告(推薦)、必要に応じ、各施設の監視(常駐、ないしは必要に応じ訪問検査・監視)、ゲーミング関連法・規則に対する違反・違法行為の摘発、犯罪行為があった場合の捜査など(専らゲーミング関連犯罪のみを取り扱い、殺人、強盗などの一般犯罪の場合には、通常の警察組織が担い、これに協力し、支援するのみというケースもある)である。また、ゲーム機械等の試験(公平性、技術標準の検証、機械仕様やシステムの変更に関する許諾ないしは拒否。但しこの業務は第三者専門試験機関への委託もありうる)などを含むこともある。カジノ場の現場に法の執行機関(即ち警察官)が常駐するか否かは国、地域によっても異なる。場内の秩序保持は基本的には施行者の警備部隊の業務であり、違法行為や秩序維持のために必要な場合には警察官が呼ばれるが、施設内に常駐しなくとも5分以内に駆けつけることのできる体制がとられることも多い。
尚、米国等では州毎に規制機関と法の執行機関との関係が異なり、必ずしも同一ではない。例えば、ネバダ州では、規制機関となるゲーミング委員会(Gaming Commission)は独立した行政委員会として許諾判断や規則制定権を保持するが、その実務は州の検事総長の下部組織となる法の執行機関であるゲーミング・コントロール・ボード(Gaming Control Board)が支える形式をとる。一方、このボード自体も常勤の委員による行政委員会が実務組織を管理運営する形式で構成され、かつこれが独自の組織と強力な法の執行権限を保持している。委員会が規則制定など最終判断を担うが、ボードに実務的な執行権限が集約され、規制の実務を掌握するのが特徴となる。規制機関と法の執行機関は二層構造として構成され、実務は法の執行機関が担うという仕組みになる。
一方、ニュー・ジャージー州では許諾判断をする規制機関となる行政委員会と法の執行を担う公安・警察当局のいずれもが類似的に強力な組織を平行的に保持し、規制機関と法の執行部隊の力が拮抗する並列型組織になっていた。規制機関と法の執行機関を峻別することは理想的なのだが、この場合、かなりの重装備の組織になり、規制当局が法の執行当局と同様に、重層的にカジノの監視や検査に参加するという面白い形態になる。ニュー・ジャージー州は制度創出期のモデルで、組織暴力対応策として、あまりにも慎重な制度を構築しすぎた嫌いが無いわけでもない。近年のその他の米国の州、あるいは、諸外国における傾向は、法の厳格性を維持しつつも、より簡素化した組織で、かつ既存の行政機構をうまく活用しながら、制度を構築し、実践しようというアプローチが多い。厳格さは妥協しているわけではないが、これを担う行政機構のあり方が簡素化しているという事例である(例えばミシガン州、ペンシルベニア州等になる)。2011年2月1日にニュー・ジャージー州は、法案S-12号を可決し、他州の例に倣い、上記の重層的・並列的な組織を改編し、規制機関たるカジノ管理委員会の組織を簡素化し、これを法の執行機関に移管し、よりネバダ州に近い二層構造による規制と法の執行体制に変更する政策変更を行った。規制機関の業務量や役割は、時代の変化に伴い、変化しているわけで、簡素化した、より合理的な規制や法の執行の在り方が求められているのであろう。