用具、器具、機械等を用いてゲームを提供する場合、顧客とゲームを提供する施行者の間で、情報の非対称性が起こりやすい。顧客は、これら用具、器具、機械等が公平かつ公正な形で使用され、運営されているか否かの情報を正確に知ることはできないからで、ここに不正や、いかさま、偽計などが入り、顧客が騙されるという可能性はゼロではない。賭博ゲームが市民社会において成立する要件とは、①ゲームにいかさま、不正が存在せず、公正かつ公平な賭博ゲームが提供されていること、②勝ち負けは専ら一定の確率や僥倖が支配的であるべきで、個別のゲームにおける顧客の技量や知識のレベルに左右されたり、人為的に設定されたりすべきものではないこと、③(電子機械等の場合には)安全性、信頼性が担保され、かつ後刻第三者がゲームの帰結をトレースし、監査可能であること等にある。顧客はこれら全ての情報を正確に把握することができない。規制当局の役割は、如何にこの状態が悪用されない仕組みを制度として設け、これを維持するかにある。
これを担保する仕組みとしては諸外国では下記が存在する。我が国においても、諸外国と同様な規範と実践のあり方が必要であろう。
① 仕様する器具、機材、機械、システム等に関し、許諾の対象となる種類、技術標準・技術パラメータ等を規制当局が定める(例えば、器具でいうならばトランプのサイズやさいころのサイズ、素材等。ゲームに使用されるチップの場合は、形状・色・素材等。電子機械ならば、個別の機械に設置される論理回路などのソフトやハードの基本的なあり方等になる)。標準を明らかにすることにより、規制の対象の範囲を正確に定義することができる。
② 但し、特定の技術仕様や製造家が特定される技術標準であってはならず、中立的であることが求められる。一定の枠内で、機材や機械の技術的範囲を限定することがその目的となり、かつ様々な商品開発や商品の在り方、技術の発展が許容できる内容でなければならない。規制は不用意に市場の発展を損ねるべきではなく、柔軟な対応が要求されることになる。
③ 上記技術的標準は、スロット・マシーン、ビデオ・マシーンのような電子機械ゲーム、キャッシュレスと呼ばれる金銭投入を伴わない電子機械ゲームや、プログレッシブと呼ばれる一定の賭け金をプール化し、高額なあたりが確率的に生まれる電子機械ゲームや関連システム等、採用されるゲーム種の類型毎に、器具等の場合には、器具毎に定められる。
④ 上記枠組みの中で、自由市場において多種多様なゲーム種や器具、機材、機械、システムが開発され、顧客に提供されるという基本的な枠組みを認める。但し、機械等の場合には、その設計・製造に際しては、個別の商品毎に論理回路を含むソフト、ハードに関する形式認証を取得する義務が設けられ、その設置・運営に関しても個別の認証を取得する必要を義務づける(所謂ソースコード、ソフトの設計図も認証の対象になる)。
⑤ 勿論上記全てを国の規制機関が行うのではなく、民間の試験機関を指定し、活用する方法等が考えられ、国の認証を受けた中立的な民間の指定試験機関が、国の規制機関の指導の下にかかる認証行為を担うことになる。
⑥ 市場から提供される器具、機材、機械、システム等は中立的な第三者による監査によりチェック可能であることも求められる。
⑦ 器具、機材、機械は比較的単純となるが、機械を連結したシステムや、管理システムとなる場合、技術標準を定めたり、個別のシステムの認証をしたりすることは単純とはならない。かかる場合には、申請者による費用負担により、当初から、中立的な専門事業者を規制機関が起用し、あるべき標準を定めたり、個別のシステムの内容を検証したりすることなども考えられる。
ゲームに係わる機械やシステムは、市場において常に発展してきており、新商品や新しい考えに基づく機械やシステム、従来の考えとは異なるハードやソフトが不断に開発され、市場に投入されつつある。例えば、単純に人や機械が提供するゲームではなく、この中間的な機械(リアル・ゲームを電子端末で複数の顧客に同時的に提供する考え)や、サーバー管理型機械ゲーム、プログレッシブ・マシーン(賭け金の一定率をため、確率的に大当たりがでる仕掛けのスロット・マシーンを電子的にリンクする仕組みの機械)、キャッシュレス機械ゲーム等様々な新商品が市場に投入されつつある。これら技術の発展も、単純に拒否することなく、基本的な技術的パラメータの枠組みに入ることが明らかな場合には、許容し、どう規制の対象になりうるのかを不断に検討する必要があるともいえる。これも規制機関の権能・役割の一つになる。