オーストラリアと同様に、ニュージーランドにおいても、賭博行為を認めることによる賭博依存症等の社会的事象が様々な形で表面化し、これらが大きな社会的問題となるに至ってしまった。この結果、政府は2000年代以降、賭博がもたらしうる危害を縮小化する施策を全面的に採用するようになってきた。問題となったのはやはりオーストラリアと同様で、市中に散在し、アクセスが容易なゲーム機械への過度の傾斜による賭博依存症患者の社会的増大にある(2012年3月時点で1,421のゲーム施設と6ヶ所のカジノがあり、カジノ外施設には18,309台のゲーム機械、カジノには210台のテーブルと28,18台のゲーム機械がある。全体で21,127台、国民の206人に1台あることになる。出所:Problem Gambling Foundation NZ)。制度の方向性は、明らかに、機械設置総数の上限を設定することにより総供給量を管理し、射幸心を煽る機械等を規制すると共に、賭博依存症問題の予防と危害の縮小化に関する諸施策を包括的に実施すること等にある。
過去、ニュージーランドでは賭博行為に伴う地域貢献や依存症患者対応への措置に必要となる財源は民間主体による自発的な寄付行為に依存してきたのが実態でもあった。但し、事業者が自らの事業性を削る形で、寄付行為を積極的に担うという考えでは十分な財源を確保できないことが明確になり、制度的に強制的な財源措置確保の手段が講じられた。この結果、1995年以降は、一部賭博分野に関しては強制的に賭博依存症患者対応費用財源負担を民間施行者に賦課してきたのだが、各賭博種毎に制度が異なったため、一貫性の無いバラバラの対応でもあった。前述した2003年賭博法(2003 Gambling Act)は、この考えを全面的に改め、異なった賭博種の社会に対する否定的影響度を基準として、新たに「賭博依存症対策税」(Problem Gambling Levy)を全ての賭博種に対し、強制的に賦課することを取り決めた(但しその率は、賭博種がもたらすリスクにより変えるという考え方をとり、リスクをより大きくもたらしている賭博種に対してはより多くの負担を要求する考えをとった。かつ全ての課税率は3年毎に、問題縮減の努力を評価して改定される)。現状は2010年に改定されたもので下記になる。
1. カジノ運営事業者:
事業者粗収益の1.34%(2004年は0.51%、2007年は0.72%であり、段階的に増えている)。
2. カジノ外ゲーム機械運営事業者:
ゲーム機械がもたらす事業者粗収益に対し0.84%(2004年は1.11%、2007年は1.7%であったが、若干減少している)。
3. ニュージーランド競技委員会(競馬等の運営主体):
主催者が賭け金から控除する金額の内、0.46%(2004年は0.57%、2007年は0.55%で、減少している)
4. ニュージーランドロッテリー委員会(ロッテリー運営主体):
主催者が賭け金から控除する金額の内、0.4%(2004年0.14%、2007年0.2%で増えている)。
上記は、国としての中長期戦略である厚生省が策定した「2010~2016年の期間における賭博危害防止・縮小化統合戦略」に基づき、6年間の戦略計画、3年間のサービス実施計画に基づき、実際の資金ニーズから必要額を計算し、これを各賭博種がもたらすリスクを勘案して賭博種毎に必要額を按分し、課税率を算出したものである。賭博依存症対策税は、内国歳入庁(Inland Revenue)が徴収し、賭博依存症に関する主務官庁である厚生省がその支出の配分を国としての総合的な政策の中で判断するというアプローチになる。厚生省の所掌は、依存症患者問題の防止と治療にあり、国、地方レベルでの様々な対応措置への財源配布、賭博依存症問題のリスクの周知徹底・教育、依存症問題に関する調査研究等を担うこと等にある。尚、実際のカウンセリング、治療、ヘルプライン等を担う組織みとして、「賭博依存症基金」(Problem Gambling Foundation NZ, PGFNZ)があるが、これは上述せる依存症患者対応賦課金の一部を原資として、厚生省が出資し、設立した非営利団体で、同国最大の依存症患者対応機関でもある。
この様に、ニュージーランドの政策の特徴は、
① 依存症を賭博行為がもたらす不可避の社会的事象として政策的に認知し、全ての賭博種を含めた一貫性のある統合的な対応施策、戦略をとったこと、
② 依存症患者対応賦課金は、安い費用ではなく、関連しうる事業者にとっても、その他の費用負担等を考慮した場合、かなり高くつくこと、
③ 関連する賭博種の賭博依存症に対する影響度の度合いや頻度、業界の問題縮減に係わる努力等を考慮・評価して、3年毎に賦課金の賦課率を上げ下げすることにより、業界全体に、問題の縮減化を図る強力な動機づけを与えていること、
などにあるといえる。
このアプローチは新しい政策の在り方でもあり、その他の諸国においても類似的な動きが生じつつある。尚、2009年以降、全ての電子式 ゲーム機械に顧客情報画像(デイスプレイ)の設置が義務付けられている(消費した時間や顧客が損失した金額等を画面に情報として明確に表示し、顧客の注意を促すという仕組みになる)。